いま人類は、AI革命、パンデミック、戦争など、すさまじい変化を目の当たりにしている。現代人は難問を乗り越えて繁栄を続けられるのか、それとも解決不可能な破綻に落ち込んでしまうのか。そんな変化の激しいいま、「世界を大局的な視点でとらえる」ためにぜひ読みたい世界的ベストセラーが上陸した。17か国で続々刊行中の『早回し全歴史──宇宙誕生から今の世界まで一気にわかる』(デイヴィッド・ベイカー著、御立英史訳)だ。「ビッグバンから現在まで」の138億年と、さらには「現在から宇宙消滅まで」に起こることを一気に紐解く、驚くべき1冊だ。本稿では本書より特別にその一節を公開したい。
「ボノボ・ハンドシェイク」とは何か?
チンパンジーは男性主導で攻撃的だ。セックスの機会がヒエラルキーに従って分配されるからである。それと好対照なのが、チンパンジーの親戚のボノボだ(人間の親戚でもある)。
およそ200万年前、コンゴ川が形成されたことによって、チンパンジーの祖先が二つの異なる生息環境に分かれた。川の南に向かったチンパンジー(それがボノボとなった)は、まったく異なる習性を進化させた。女性主導のヒエラルキーの下で生活を営み、性行動が盛んになった。
身体的にはオスが強いことが多いが、ごくまれにオスがメスに攻撃的な態度を示すと、姉妹的結束で結ばれたメスたちが力を合わせてそれを阻止する。わめいたり叫んだりしてオスを追い払うこともある。オスの指を折ることもある。メス同士でも上下関係をはっきりさせるために暴力をふるうことがあるが、セックスの機会が潤沢にあるため、全体的な暴力の量は少ない。
霊長類では珍しいことだが、ボノボは顔を向き合わせてセックスをし、フェラチオやクンニリングスを行い、「フレンチキス」をすることもある。ボノボは性欲が強く、数時間おきに自慰をする。あいさつをするとき、緊張を和らげるために「ボノボ・ハンドシェイク」と呼ばれる方法で互いの勃起した性器に触れる傾向がある。
人間はもっとボノボに似ていたらよかった?
ボノボの集団では性行動が広く行われるので、そもそも男性が攻撃性を発揮しなくてはならない理由が少ない。二つの集団が森で出会うと、最初こそオス同士が少し緊張するかもしれないが、そのうち両方の集団のメスが相手の集団の見知らぬオスとセックスを始める。チンパンジーなら喧嘩になるような集団間の緊張が、ボノボでは乱交で終わる。
それを知ると、人間がボノボよりチンパンジーに近いのは不幸なことのように思える。だが人間は、攻撃性や戦争や男同士の競争がある一方で、ボノボとも多くの性習慣を共有しており、戦争ではなく平和を求めて行動することもある(戦争に比べると「ラブ&ピース」のヒッピー的期間がごく短いのが残念だ)。
(本稿は、デイヴィッド・ベイカー著『早回し全歴史──宇宙誕生から今の世界まで一気にわかる』からの抜粋です)