大阪市の中でも辺鄙な場所にあり、4階建てなのにエレベーターもなく、老朽化していることに加え、無理な増改築を重ねてきたことにより役所の検査をうけていないため、事務所用途以外には使用できません。当然、借り手の見込みもなく、2億円の債務を返済できるような不動産ではありません。売却しても8000万程度の価値なので、債務は残ってしまいます。
銀行が描いたシナリオは、土木事業を分離した後のF社を倒産させる前提のスキームです。Fは大きな衝撃を受けたものの、「残り2カ月でスポンサーを探すから必要ない」とだけ毅然として伝えました。あてがあったわけではありませんが、やすやすと受け入れるつもりはありませんでした。
その直後にA建設から「話だけでも聞いてくれ」と連絡が入ります。情報収集を兼ねて応じることにしましたが、開口一番、高圧的な態度で「1円での全株式譲渡以外、交渉には応じない」と言われたため「お宅に売るつもりはない」とここでも突っぱねることになります。A建設にはメインバンクからの天下り役員がいたことも判明しました。
この時から、本格的にスポンサー探しを始めました。代わりにメインバンクになってくれそうな銀行に手当たり次第に打診していきますが、色よい返事はなかなかもらえません。
理由は二つありました。
一つは、創業者である祖父がメインバンク重視の方針を貫いていたため、2番手、3番手の銀行と信頼関係がつくれていなかったこと。
もう一つの理由は、「債務が少なすぎた」ことでした。意外に思われるかもしれませんが、健全な財務状況なのにメインバンクが見放すということは、何かあるのではないかと警戒されたのです。一部の関係者からは、「債務の桁がもう一つ大きければ支援できたかもしれない」と言われ、Fは愕然とします。
迫りくる資金のショート
鳴り止まない電話
Fは融資してくれる銀行を探すのと並行して、M&A候補も探して歩きました。脈があったのは、某建築会社のオーナー個人が持つ資産管理会社B社でした。