資金ショートまで2週間に迫った頃、B社の担当者から、A建設よりも好条件でのM&Aが提示されました。「事業分割なし。そのままの形で事業を継続する」「Fは会社を手放すことにはなるが、個人の債務は発生しないし、場合によっては社長か顧問の形でかかわってもらってもいい」という条件でした。Fは、この話を水面下で進めることにしました。

 とはいえ、これまでも何度も裏切られてきました。実際に契約を交わすまでは安心できません。

「こっちは、会社の命運がかかっている」

 B社の担当者に、執拗ともいえるほど何度も確認をとりました。「九分九厘やります。安心してください」とは言ってくれるものの、月末間近になっても一向に契約書面が届きません。

 結局、契約が締結されないまま、資金ショートする前日を迎えます。この日は諸々の支払期限でもあったので、入金がない取引先からの電話が鳴りまくりました。

「今月入金がなかったらうちも潰れる」「今から集金に行きます」と電話口で怒鳴られて、会社は大混乱に陥ります。B社担当者から連絡が入ったのは、このタイミングでした。

「すみません、やっぱりできませんでした」