もう一例をあげよう。中国の不動産デベロッパーと共産党幹部の癒着を暴露するノンフィクション『私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット 中国の富・権力・腐敗・報復の内幕』(デズモンド・シャム著、神月謙一訳、草思社、2022年)のなかで、不動産開発に携わっていたシャム夫婦(当時)が、共産党幹部の関係者および2人の実業家の3組の夫婦を接待するため、4機のプライベートジェットを飛ばしてヨーロッパへ旅行に出かけたというエピソードが出てくる。

 出発間際になって、みんなで一緒にトランプで遊ぼうという話になり、4組の夫婦8人は同じ飛行機に乗り込んだ。あとの3機は乗務員以外、誰も乗っていなかったが、後をついていった。彼らはパリに着いて、シャンゼリゼ大通り近くのミシュラン星付きのレストランで食事をするが、ワインだけで10万ドル(当時のレートで約850万円)を超えたと本のなかで記されている。これらのお金はすべて不動産開発と不動産投資から得られた利益のはずである。

 不動産バリューチェーンのなかで、これらの勝ち組の贅沢三昧の生活を支えているのは結局のところ、マンションなどの不動産を高価格で購入している無数の個人である。経済学的な分析はあとの章で行うことにするが、この2つの事例からは、中国の不動産市場が明らかにバブルとなっており、持続不可能な状態となっていたことが明らかだ。このような理不尽なバブルがはじけないはずがない。

債務連鎖は待ったなし
政府の救済は望めるのか?

 それではなぜ一定数の人には、中国の不動産バブルが崩壊していないように見えるのだろうか。 不動産バブルが崩壊したかどうかを判断する指標には、不動産価格の下落、デベロッパーの経営状況、個人による住宅ローンの延滞、銀行の不良債権問題などがある。

 一般的に不動産バブルが崩壊すると、不動産価格はある程度下落するが、大暴落はしにくい。これは不動産価格の下方修正硬直性によるものといわれている。デベロッパーの経営悪化ないし大規模倒産が起き、景気が急減速するのを受けて、個人による住宅ローンが延滞され、銀行のバランスシートに巨額の不良債権が生まれ、金融システム不安が現実問題として浮上してくる。これが、不動産バブル崩壊が引き起こす債務連鎖である。