相続で取得した不動産の名義を変更する相続登記が4月から義務化され、怠った場合は罰金というペナルティーも導入された。手間や費用もかかるため、ばれないと高をくくって放置していると痛い目に遭うかもしれない。実は法務局は相続登記をしていない土地の大調査を進めているのだ。特集『法改正で知らない間に損をしない!相続・贈与・実家の新常識』(全13回)の#2では、4月からルールが変わった相続登記を巡る最新事情を追った。(ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)
相続登記の3年以上放置は罰金に
法務局が長期放置11万人を捕捉
「長期間にわたり相続登記等がされていないことの通知(お知らせ)」――。
相続で土地を取得したものの登記をせずに放置している人に対し、全国各地の法務局がこう題した“警告書”を送っている。
通知には対象となる土地の場所や不動産番号が明記された上で、「調査した結果、長期間にわたり相続登記等がされていないことが判明した」と指摘。この機会に必要な登記申請を行うよう「御理解」と「御協力」を求める内容だ。
相続で不動産を取得するケースは少なくない。国税庁の統計によれば、2022年に発生した相続の相続財産21.9兆円のうち、土地と家屋は37.4%を占める。
相続税の申告期限は相続発生から10カ月しかなく、特に不動産の相続は現金などと異なり均等に分けづらいため、遺産分割でもめやすい。誰が土地を相続するかが決まったとしても、相続による所有権移転の登記(相続登記)をするためには、申請用の書類を集めたり、登録免許税を支払ったりする必要があるなど、手間やコストがかかった。
おまけに、相続登記をしなくても特段のペナルティーはなかったため、放置されるケースが目立っていた。
この相続登記を巡るルールが、民法と不動産登記法の改正で24年4月1日から変わった。主なポイントは三つだ。
一つ目は、相続で取得した不動産の相続登記が義務化されたことだ。相続人は、不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務になった。
二つ目は、過去に発生した相続に対しても適用されることだ。猶予期間は新ルールが施行された24年4月から3年間だ。つまり27年3月末までに、これまでに相続で不動産を取得していた場合は、相続登記をする必要がある。
三つ目は、違反した場合の罰則規定の新設だ。正当な理由がないにもかかわらず相続登記の申請を怠った場合には、最大で10万円の罰金となる。
そうはいうものの、前述のように相続登記の作業にはコストも手間もかかる。これまで指摘されなかったこともあり、「放置していても、黙っていれば分からないのではないか」と考える人もいるだろう。
ところが国は相続登記をしていない土地の解消に本腰を入れている。全国50法務局が調査を進め、相続登記を長期間せずに放置している相続人約11万人を捕捉していることが、法務省への取材で分かった。
4月からの相続登記の義務化に伴い、冒頭の通知は“罰金予備軍”への法務局からの実質的なイエローカードだ。いったいどんなケースで通知が送られるのか。
次ページでは、相続登記を放置している土地の中でも、どんな土地が法務局の調査対象になるかを解説する。