共通ポイントの覇権を巡る“天下分け目”の戦いの舞台となったのが、コンビニエンスストア大手のファミリーマートだ。Tポイントの加盟店の中核であるファミマを後発の楽天(現楽天グループ)やNTTドコモが攻略し、「1強支配」を続けてきたTポイントは凋落の一途をたどることになる。共通ポイントの各陣営に加え、伊藤忠商事やソフトバンクグループも入り乱れた熾烈な攻防の舞台裏を2回に分けてひもとく。長期連載『共通ポイント20年戦争』の#27では、伊藤忠社長だった岡藤正広氏とのトップ会談など、ファミマの切り崩しに向けた楽天の決死の交渉の内幕を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)
楽天はサークルKサンクスを獲得も
大再編でコンビニを失う危機に直面
2014年10月にスタートした楽天(現楽天グループ)の共通ポイント事業で、最初期の加盟店として中核的な存在だったのが、コンビニエンスストア業界4位のサークルKサンクスである。
楽天がサークルKサンクスとの加盟店交渉をスタートしたのは、共通ポイント事業への参入を決めた12年のことだ。交渉役を担ったのが、Tポイントの「生みの親」で、当時はまだ楽天の顧問だった笠原和彦である。笠原は、元会長の橘高隆哉や取締役商品本部長の塚本直吉に導入を呼び掛けた。
その6年前、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)でTポイントの総責任者だった笠原は橘高らにTポイントへの加盟を促していた。ローソンの電撃離脱で苦境に陥ったTポイントにとって、まさに存続を懸けた交渉だった。
だが、結局、CCCは並行して交渉を進めていたファミリーマートを選び、サークルKサンクスとの交渉は打ち切った(『ローソン離脱で絶体絶命!Tポイントの“救世主”はサークルKかファミマか…「大博打」のトップ交渉秘話』参照)。そんな因縁があった笠原の提案に対し、橘高らはこう笑った。「前回Tポイントはファミマを選んだんじゃないの」。
そうは言ったものの、当時のサークルKサンクスにとって笠原の提案は“渡りに船”であった。ローソンやファミマと異なり、サークルKサンクスはどこの共通ポイントにも属していなかったからだ。楽天にとっても、まだ囲い込まれていないサークルKサンクスは必中案件だった。
そんな両者の思惑を背景に交渉はスムーズに進んだ。そして、13年7月に楽天とサークルKサンクスはポイントの提携で合意する。全国6000店を展開するサークルKサンクスは、最初期の楽天の加盟店では最大の店舗網を誇った。
だが、共通ポイント参入からわずか半年後の15年3月10日、楽天は激震に見舞われる。導火線となったのが、コンビニ業界の大再編である。当時、業界3位だったファミマとサークルKサンクスを傘下に持つユニーグループ・ホールディングスが経営統合に向けて交渉に入ると発表したのだ。統合後に店舗ブランドを統一する方針も明らかにしていた。規模で勝るファミマを残し、サークルKサンクスが消えるシナリオが有力だった。
当然、店舗ブランドの統合は、共通ポイントの戦略の在り方をも問うことになる。サークルKサンクスが楽天ポイントを採用していたのに対し、ファミマは長らくTポイントを扱ってきた。
当時は共通ポイントとしての知名度や存在感はTポイントが圧倒的だった。サークルKサンクスが消えれば、同時に楽天ポイントも加盟店を失う可能性があった。
コンビニは共通ポイントにとって極めて重要な加盟店である。ガソリンスタンドや外食チェーンなどと異なり、消費者が日常的に利用するコンビニは、ポイント経済圏にとっては欠かせない存在だからだ。実際、楽天ポイントが絡む全加盟店の売上高のうち、サークルKサンクスは4割をも占めていた。共通ポイント事業に参入したばかりの楽天が、加盟店網からコンビニを失いかねないという最大の危機に直面したのである。