Tポイントと楽天ポイントはファミリーマートを舞台に真っ向から激突した。いったんはTポイント陣営がファミマを死守するものの、その後、楽天とNTTドコモが牙城を攻略する。前回に続いてファミマ攻防戦の内幕をひもといていく。長期連載『共通ポイント20年戦争』の#28では、ファミマでのTポイントの「1強支配」が崩壊に至った三つの理由を解説する。また、共通ポイントの覇権を巡り、幻のファミマ買収提案を引っ提げて電撃乱入した大物経営者の正体も明かす。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)
ファミマでTポイントが巻き返し
楽天の努力実らず、コンビニ落とす
コンビニエンスストア業界3位のファミリーマートと業界4位のサークルKサンクスを傘下に持つユニーグループ・ホールディングスが2015年3月に発表した再編が、共通ポイントの覇権を巡る“天下分け目の戦い”の口火を切った。
ファミマを囲い込んだままにしておきたいTポイントと、サークルKサンクスを加盟店に持ち、Tポイント支配に風穴を開けたい楽天(現楽天グループ)が、真っ向から激突することになったのだ。
当初、楽天ポイントの総責任者の笠原和彦はファミマを攻めあぐねていた。事態の打開に向けた大博打が、16年4月の会長兼社長の三木谷浩史とファミマをグループに収める伊藤忠商事の社長、岡藤正広の頂上会談であった(『楽天がTポイントの牙城・ファミマ攻略に大苦戦!ようやく漕ぎ着けた「三木谷氏×伊藤忠・岡藤氏」頂上会談の成否は?』参照)。
一方のTポイント側も強力な巻き返しを図る。「システム利用料の値下げ」。カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)傘下でTポイントの運営会社であるTポイント・ジャパン社長の北村和彦は、専務取締役総合企画部長の加藤利夫にそんな驚きの提案をする。契約期間中の値下げは異例のこと。ファミマを落とすことはできないというTポイント側の意思がにじんでいた。
NEC時代の笠原の後輩だった北村は、笠原の縁でCCCに参画した。笠原がCCCを去った後には、北村が総責任者としてTポイントを指揮してきた。ファミマを巡って、その笠原と北村が全面対決する構図となったのだ。
そのTポイント側は2016年5月、ファミマに対してマルチポイント化は難しいとの結論を伝えた。理由には、顧客や購買のデータの一元化の問題やPOS(販売時点情報管理)システムの改修コストが挙げられた。システム利用料の値下げなどをきっかけに北村と加藤の結びつきも強まっていた。楽天側の攻勢は、かえってTポイントとファミマのつながりをより強固にする作用として働いてしまったのだ。
楽天ポイントの扱いについては、ファミマと統合するサークルKサンクス側も継続を申し入れていた。理由は、ポイントの還元率にあった。ここでいう還元率とは、加盟店が1ポイントを発行した際に、何ポイントが戻ってくるかというものだ。つまり、数字が高いほど、加盟店にとっては、ポイントの利用が多く、“恩恵”が得られる。この時点で、ファミマのTポイントの還元率が115%だったのに対して、サークルKサンクスの楽天ポイントは350%にも上っていた。数字では、楽天に軍配が上がっていたのだ。
「これだけ効果のあるポイントを本当に捨てていいのだろうか」。ファミマとの統合交渉の議論の中で、サークルKサンクスの取締役商品本部長の塚本直吉もそう唱えていた。
だが、ファミマ会長で“最高権力者”だった上田準二とCCC社長兼CEO(最高経営責任者)の増田宗昭の関係が揺らぐことはなかった。加えて、社内では圧倒的に浸透していた「ファミマ=Tポイント」のイメージを守りたいとの判断も強く働いた。
最終的には、笠原らの努力は実らなかった。ファミマ社内では、Tポイントへの一本化で議論が進んんだ。そして、ファミマは17年9月6日、店舗ブランドの統一後に楽天ポイントの扱いを停止すると楽天側に通告することになる。楽天が加盟店網からコンビニを失うことになったのだ。最悪のシナリオである。「力及ばず、申し訳ない」。塚本は笠原にそう頭を下げた。
ファミマを巡る攻防では、Tポイントが楽天を退け、牙城を死守した形となった。しかし、その後、共通ポイントの覇権を巡って不可逆的ともいえる“地殻変動”が進んでいくことになる。