すかいらーくグループのファミリーレストラン「ガスト」Photo:AFLO

共通ポイントの覇権を巡る戦いの舞台となったのが、外食大手のすかいらーくである。Tポイントの加盟店網の“中核”だったすかいらーくに、後発の楽天(現楽天グループ)が切り崩しを仕掛けたのだ。だが、そこに思わぬ“伏兵”が登場し、リードしていた楽天は出し抜かれることとなる。長期連載『共通ポイント20年戦争』の#26では、共通ポイント陣営の新旧交代を印象付けることとなった、熾烈なすかいらーくの攻略戦の内実を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)

楽天ポイントはすかいらーくに照準も
Tポイントの契約更新には割り込めず

「Tポイントはとても素晴らしいんですよ」。2014年12月16日、東京都武蔵野市にあるすかいらーくの本社。同社執行役員マーケティング本部マネージングディレクターのニシャード・アラニは、楽天の共通ポイントの総責任者だった笠原和彦にそう熱弁を振るっていた。

 笠原がアラニの元を訪れたのは、共通ポイント事業に参入したばかりの楽天ポイントの営業が目的だった。だが、アラニは楽天ポイントの話には興味を示さず、Tポイントを手放しでほめちぎり続けた。アラニは、目の前にいる笠原がそのTポイントの「生みの親」であることを知らなかったのだろう。Tポイントのデータを活用した販促策などを得意げに語った。笠原は心の中で何度もこうつぶやいていた。「よく知っていますよ」。

 すかいらーくがTポイントを全面導入したのは08年1月のことだ。カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)でTポイントを生み出した笠原は足掛け4年のタフな交渉の末に、すかいらーくを加盟店に加えた(『すかいらーくはTポイント参画に丸4年!革命的な「1業種1社」ルール考案も加盟店開拓は難航』参照)。

 そのすかいらーくの経営体制は、笠原が10年にCCCを去る前後までに大きな変遷を遂げてきた。横川端、茅野亮(旧姓横川)、横川竟、横川紀夫の「横川4兄弟」が1962年に創業したすかいらーくは、06年に当時国内最大規模となる創業家によるMBO(経営陣による自社買収)で非上場化した。

 だが、株主だった野村證券(現野村ホールディングス)傘下の投資会社と、創業家の3男で当時社長だった横川竟が対立。08年には横川竟が解任される。その後、11年に米投資ファンドのベインキャピタルに買収され、14年に再上場を果たすことになる。当時はまだベインが筆頭株主で、笠原のカウンターパートだったニシャードもベインから送り込まれた役員だった。

 笠原は、ニシャードと部下でマーケティング本部ディレクターの堤雅夫との交渉に当たった。だが、議論は一向に進展しなかった。「自分の拙い英語のせいかもしれない」。笠原はそうも思ったが、どうもニシャードはTポイントのほうが圧倒的に優れていると思い込んでいるようだった。

 もともと笠原がこのタイミングですかいらーくをターゲットに定めたのは、Tポイントの契約期間があった。CCCとすかいらーくの契約は5年契約で、16年3月末が期限であった。15年中に笠原は契約をひっくり返すべく粘り強く交渉したが、結局すかいらーくはTポイントと契約更新してしまう。最初の交渉は“空振り”に終わったのだ。