三木谷浩史,楽天とアルペンPhoto:ZUMA Press/AFLO

スポーツ用品最大手、アルペンは2019年4月に楽天(現楽天グループ)の共通ポイントを導入した。実は、この出来事は共通ポイントを巡る覇権戦争において極めて大きな意味を持つ。それは、アルペンがTポイント陣営を脱退し、楽天ポイントへの“乗り換え”に踏み切った「第1号」だったからだ。これをきっかけに、長らく続いたTポイントの1強支配は崩れていくことになる。長期連載『共通ポイント20年戦争』の#25では、Tポイントの凋落と楽天の飛躍を決定付けたアルペンの重大決断の深層を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)

楽天がアルペンにアプローチも難航
会員基盤の刷新プロジェクトが転機に

 2019年3月18日、楽天(現楽天グループ)会長兼社長の三木谷浩史とスポーツ用品最大手、アルペン社長の水野敦之はがっちりと握手を交わした。同日の記者会見で、同年4月1日からアルペンの全401店舗で楽天ポイントが使えるようになると発表したのだ。 

 実は、アルペンによる楽天ポイントの導入は共通ポイントを巡る覇権戦争において極めて大きな意味を持つ出来事である。それは、アルペンがTポイント陣営を脱退し、楽天ポイントと組んだということだ。Tポイントからの“乗り換え”は業界では初。後発の楽天が盟主に躍り出るきっかけの一つとなったのだ。アルペンはなぜ「脱Tポイント」を決断したのか。

 共通ポイントの「生みの親」で楽天のポイント事業を率いていた笠原和彦は、14年秋に楽天ポイントがスタートして以降、アルペンにアプローチを続けていた。だが、アルペン社内では、検討はなされたものの楽天ポイントに切り替えようという結論には至らなかった。笠原は15年には当時社長だった創業者の水野泰三に直談判したが、「楽天ポイントはまだ会員が少ないので今回はごめんなさい」と断られてしまった。まだまだTポイントが天下の時代が続いていたのだ。

 だが、転機が訪れる。17年ごろからアルペンは会員基盤を刷新しようとしていた。当時、アルペンはジャックスと提携カードを発行していたほか、グループ内のゴルフ専門店、ゴルフ5では別の会員の仕組みがあった。つまり、会員データが分散されてしまっていたのだ。しかも、18年秋にはECサイトを立ち上げる予定だった。顧客データの一元化を図るには、異なる業態だけでなく、店舗とECも一緒に新たな会員基盤に載せる必要があった。大改革である。

 そのプロジェクトを率いていたのが、当時アルペン常務執行役員(現専務執行役員)だった二十軒翔である。二十軒の経歴は異例だ。二十軒は東京大学法学部から外資系戦略コンサルティング大手のベイン・アンド・カンパニーに入社し、コンサルタントとしてキャリアを積んだ。ところが、2014年、30歳を目前に新しいことをやってみたいと転職を検討する。すると、あれよあれよという間に、人材仲介会社に紹介されたアルペンに転じることになった。

 コンサルから事業会社への転職は今やそこまでは珍しくはないが、スポーツ用品を手掛け、しかも縁もゆかりもない名古屋に本社があるアルペンへの転職に周囲は驚きを隠さなかった。ただ、二十軒はコンサルタントがよく選ぶような転職先に移るつもりはなかった。「他の人がやっていることはやりたくない」。そんな性格だったのだ。

 話を戻そう。会員基盤を一元化するという大プロジェクトにはボトルネックがあった。それがクレジットカード会員である。ジャックスとの提携カードは会員数が多く、新たな受け皿が欠かせなかった。そのタイミングで笠原から出てきたある提案に、二十軒が目を留める。