思わず感激した
「まずスパークリングワインを」
では逆に、店から見ていて気持ちのいい客、好かれる客とはどのような人か? はっきり言ってしまえば、マナーが良くて金払いのいい客に尽きるのだが、それでは身もふたもない。もう少し深掘りするなら、バーテンダーやスタッフに対して大人の気遣いが感じられる客だろう。
以前、深夜にこんなことがあった。初来店の5人グループがテーブル席に座り、「私はイチゴにしようかな」「僕はブドウがいいな」と、それぞれ生フルーツのカクテルを選び始めた。カウンターで背中越しにそのやりとりを聞いていた筆者は、しっかりバーを楽しもうとしてくれているようでうれしくなったものである。
すると、リーダー格らしい1人の男性がおもむろに、「カクテルもいいけど、先に泡(スパークリングワイン)をグラスで1杯ずつ頼もうよ」と言い出した。要は、一気に5種類のカクテルをオーダーすると、バーテンダーの作業が立て込んでしまうので、泡をやってる間に次のカクテルを準備してもらおう、という意図だ。
これはワンオペ店にとっては大変ありがたい心遣いで、実に素敵であった。
また、品のいい客というのは総じて、初見でも会話の切り出しが巧みなもの。着席後、まず目の前のバーテンダーが客との会話を重視するタイプなのか、それとも静かに飲ませるタイプなのかを見極めるように一拍置いて、ごく自然なタイミングで「いいお店ですね」「ここはいつから営業しているんですか」などと、差し障りのない質問を投げかけてくれる。おのずと話がはずむものだから、店を閉めたいまも友達付き合いを続けている人も多い。
