新興企業や小規模企業の
従業員は起業を選びやすい

 どのような企業から従業員スピンアウトが生まれやすいのでしょうか。たとえば、スピンアウトを生み出す既存組織の特徴として、企業の規模(大きいか小さいか)や年齢(古いか新しいか)といった点に注目が集まってきました。

 まず、大きな企業から従業員スピンアウトが生まれやすいことを示す研究があります(Dick et al., 2013)。大企業からスピンアウトが生まれやすい理由としては、大企業ではマネジャーがコア事業とは関連しない多くの事業機会を認識することができないため、従業員に不満が溜まることなどが挙げられています。

 他方で、全体としては多くの研究において、相対的に小さい企業あるいは新しい企業からのほうが従業員スピンアウトは生まれやすいことが明らかにされてきました(Habib et al., 2013)。

 企業の規模や年齢がスピンアウトの創出確率に影響を与えるのは、組織における官僚主義が関係していることが指摘されています(Sorensen, 2007 ※人名の「o」は中に1本斜線が入る特殊文字)。

 大企業あるいは古い企業においては、組織のヒエラルキーが精緻であり、業務がルーチン化しており、従業員個人の役割や組織の規則が明確化されている傾向があります。結果として、このような官僚主義的な組織では、社会的な適合性が重視されることになり、既存の秩序を打ち破ろうというような知的な柔軟性が生まれず、起業機会を追求するような個人は出てこないだろうというわけです。

 また、このような企業では、従業員は比較的狭い範囲での業務にしか携わることがないと考えられます。これまでの研究からは、起業には専門的なスキルを持つスペシャリストより、多様な職種の経験を持つジェネラリストのほうが適していることが指摘されてきました(Lazear, 2004)。

 逆に、小さくて新しい企業では、従業員は多様な業務において職務経験を積むことになり、結果として起業能力が醸成され、大企業勤務の従業員よりは小企業勤務の従業員のほうが起業家になる可能性が高いと考えられます。