2000年以降、ドル円レートは短期金利よりも長期金利の影響を受けやすい傾向が見られた。一方、実体経済を下押しする度合いは長期金利よりも短期金利の方が大きい。景気回復の足取りが鈍い中、国債買入減額による長期金利の上昇は円安是正を通じたインフレリスクの抑制に効果的だ。

 大和総研の試算では、国債発行残高に占める日銀保有割合が1%ポイント低下すると長期金利は0.03%ポイント程度上昇する。また短期金利1%ポイントの引き上げは長期金利を0.49%ポイント押し上げる。

 これらを基に、日銀の国債保有割合がバランスシート拡大政策前と同程度の10%まで低下し、短期金利が景気に中立的とみられる1.75%まで引き上げられると、長期金利は3%程度まで高まり得る。このうち国債買入減額の効果は1.2%ポイント程度で、利上げ効果(0.8%ポイント)を上回る。国債買入減額による長期金利への中長期的な上昇圧力は無視できない。

 財政リスクプレミアムの拡大にも注意が必要だ。国債の最大の需要者である日銀の買入減額は、国債の安定消化への懸念を強めかねない。「金利のある世界」では金融システムへの影響も大きくなり、政府の財政健全化の取り組みも一層重要になる。日銀は、インフレ目標達成と金融システムの安定を目指しつつ、国債保有残高の減少と利上げを混乱なく進めるという難しいかじ取りを迫られるだろう。

(大和総研シニアエコノミスト 久後翔太郎)