ハーバードの知性Photo:PIXTA

自らの倫理観を問われる問題に直面したとき、リーダーはどう決断すべきか。ハーバードビジネススクールで企業倫理の授業を担当するジョセフ・バダラッコ教授は、「現実では必ずしも自分の倫理観に基づく行動が取れるとは限らない」と指摘する。企業不祥事が相次ぐ今こそ知っておきたい、モラルを問われる場面でのリーダーの行動のポイントについて、事例に基づき解説してもらった。(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)

ハーバードの学生が学ぶ
「企業倫理」の授業

佐藤智恵 ハーバードビジネススクール(以下ハーバード)の企業倫理の授業では、社員や管理職が日常的に直面しそうな事例を数多く学ぶと聞いています。

 中でもバダラッコ教授が執筆した『トレーディングフロアでの葛藤(Conflict on a Trading Floor(A))』はハーバードの卒業生なら誰もが知っている有名な事例ですね。この事例は、最新刊の『真のモラルコンパス』でも取り上げられていますが、なぜこれほど長く学生たちから支持されてきたのでしょうか。

ジョセフ・バダラッコ 『トレーディングフロアでの葛藤』は、ハーバードのMBAプログラムやエグゼクティブプログラムで30年以上にわたって教えられてきた定番教材です。この教材が毎年ハーバードで高い評価を得ているのは、どの時代のビジネスパーソンでも直面する本質的な問題を問いかけているからだと思います。

 このケースをもとに学生たちが議論するのは次の問題です。

ある社員が上司から指示された仕事に対して「これは不正ではないか」と疑問を抱いた。上司は問答無用で「やりなさい」と命令するタイプの人で、部下は面と向かって上司に不正を指摘しづらい状況にある。あなたがこの社員だったら、どのような行動を取るか。

 実際の教材の主人公は若手社員ですが、組織で働いていれば、どの年齢、どの職位の社員であっても、必ずや同じような状況に直面することがあるでしょう。だからこそ、いつの時代もこの事例は学生たちの共感を呼ぶのだと思います。

佐藤 『トレーディングフロアでの葛藤』の内容をもう少し具体的に説明すると次のようになりますね。