B Market Builder Japan共同代表、ovgo Baker創業者。慶應義塾大学法学部卒業。三井物産勤務などを経て、2020年にovgo Baker創業。24 年3月にB Market Builder Japanを新体制で発足し、共同代表に就任した。
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インクルーシブ(包摂的)かつ公平で、リジェネラティブ(再生型)経済システムへの変革を目指すムーブメント「B Corporation(B Corp、Bコープ)」。一定基準に達した企業に「Bコープ認証」を付与するなどして活動を広めている。食品大手ダノンやアウトドア用品のパタゴニアなど世界101カ国、8900社以上が認証され、日々増加中だ。日本での普及を推進するB Market Builder Japanの共同代表で、自社でもBコープ認証を取得した溝渕由樹氏にインタビューした。全3回の連載でお届けする。連載2回目は、溝渕氏の起業動機やBコープ認証取得の経緯についてです。(聞き手・文/ダイヤモンド社 論説委員 大坪 亮)
ヴィーガン食を知るきっかけや
選択肢を提供したい
――貴社、ovgo Bakerの話を聞かせてください。どのように読むのですか。
オブゴ・ベイカーです。Organic,Vegan,Gluten-free as Optionsの頭文字をとってovgo。オーガニック、ヴィーガン、グルテンフリー、アズ・オプションズです。卵やバターを使用しないで、全てプラント(植物)ベース原料でつくるヴィーガン向けのやさしいアメリカン・クッキーを生産して販売しています。
可能な限りローカルで、オーガニックな材料を調達して、環境負荷を最小限にするための行動を心がけています。そのコンセプトや原材材などはovgo Bakerのウェブサイトで公開しています。
――どういう経緯で創業したのですか。
子供の頃からお菓子が大好きで、自分で作っていました。また、人権などにも関心があって、どうしたら格差をなくせるかということなども、20歳くらいの頃から考えていました。
大学生の時にNGOでインターンさせてもらい、こういうところで働こうかなと思いつつも、ビジネスについて知ることも大切だと考え、三井物産に就職しました。仕事をする中で今後40年、50年と働いていくのだから、自分が好きなことと社会的関心事が合致した事業に従事したいと思うようになりました。結果、好きなクッキー作りと社会貢献を同時に実現しようと考えるにいたったのです。
かつてプラント(植物)ベース食品は、動物愛護や健康のためという要素が強く、それ自体も大切ですが、5年前くらいから気候危機や食料問題への対応にもなるという認識が社会に広がり始めました。畜産は相対的に土地を多く使って環境負荷も高いので、プラントベースにシフトすれば、そうした問題の軽減に繋がると考えられるようになったのです。
三井物産を辞めてアメリカ大陸を一人旅した時に、プラントベースの食品売り場やレストランを見て回り、社会課題に対する自分の考え方に合うと確信しました。当時は日本にそうした選択肢が少なかったこともあり、帰国した2019年夏に今の形での起業を決めました。
宗教や健康、社会問題などいろいろな理由からヴィーガン食品を食べたいという人たちに、私たちのアメリカン・クッキーを新たな食の選択肢としてもらいたいのです。
また、ヴィーガンは意義があると考えて実践している人はリスペクトするのですが、私自身はずっと続けていくのは大変です。実際そういう人の方が多いですよね。だから、私たちの商品をきっかけに、それまでの食生活を少しグルテンフリーにシフトする人が増えると、社会全体のサステナブルに繋がり、真のインパクトになるとも思っています。私たちは、プラントベース食品の“入り口”の役割を果たしたいのです。
――そういう意味で、社名に「アズ・オプションズ(選択肢として)」という言葉が入っているのですね。小学校時代の友人3人で起業したということですね。
友人の一人が動物大好きで愛護精神旺盛なヴィーガン、もう一人が環境派でオーガニック食に熱心です。私はいずれもそこまでではなく、あまりにストイックな面を商品で見せてしまうと、多くの人に受け入れられないと考えています。
一方で、原材料調達では、なるべくローカルなものを使ったり、移送を含めてトータルのCO2排出量を計算して削減策を練ったりして、環境負荷を減らしています。そうした裏側の基盤はしっかり築いて、クッキーとして消費者に見える面は緩く、楽しくしても、実質的に真っ当な商品を提供しています。