派閥解体後の自民党の行方と、予期せぬ政権交代の可能性。有権者の「アナーキーな選択」が引き起こす政界再編のシナリオとは。さらに、国民が政治への関心を失い、投票率が下がることによる「小さな自民党」の固定化は最悪のパターンだと指摘するのは政治学者の御厨貴氏。「小さな自民党」が日本の安全保障に与える影響も指摘する。不信感が広がる日本政治の未来図を展望してもらった。(取材・文/ライター 田之上 信)
常識的に考えると、政権交代はない。だけど…
――前回、派閥の大きなメリットの一つとして「情報」があるというお話でした。
渡辺さんは本書で派閥の存在理由を4つあげていますが、付け加えてもう一つ大きな派閥のメリットが「情報」です。
昔、田中角栄は田中派を140人規模まで大きくした理由を話したことがあります。彼は「田中派総合病院説」というふうに説明していました。
――「田中派総合病院説」というのはどういうことですか。
代議士は有権者からいろいろ頼みごとをされるじゃないですか。ただ、何か頼みごとをされても、その代議士が必ずしもその分野に精通していたり、解決法を知っていたりするわけではない。
そうすると誰かに聞かなければいけないでしょ。全く派閥と関係ない、話もしたことのないような代議士には聞きにくいじゃないですか。
だけど田中派は140人いるから、必ずある分野に詳しい代議士がいる。それが相互に情報を流通し合い、この問題については彼のところに行けばいいとすぐに解決できる。田中さんはそれを「田中派総合病院説」と言ったわけです。情報交換がすぐにできるメリットがあるんだと。
――派閥が消滅に向かう中で、自民党内は今後どのような動きが進んでいくと思われますか。