サイクルツーリズムの台頭
新しい観光のカタチ

 大会期間中はバカンスなので、世界各国からやってきた旅人たちがレースを楽しんでいる姿を毎日目撃する。もちろん自転車レースなのだから、自転車を移動手段として使っている人も多い。季節も自転車に乗るにはまずまず。だから旅のアイテムとして自転車を持ち込んで、訪れた場所での機動力を確保する。

 自転車に乗るということを再定義する時代に来たという。これからは「移動」や「レース」としてだけでなく、もっと気軽に自由に楽しく乗る。新しい生活様式や働き方改革で自転車通勤という日常もいいが、非日常としてペダルをこぐ。これは世界的なトレンドのようである。そこで「自転車」とくっつけたのが「観光」だ。自転車を使って観光するという意味の「サイクルツーリズム」という言葉もかなり定着している。

 日本でも観光客を受け入れる自治体の観光振興はもはや無視できない存在だ。どうやったらサイクリストがこの町を訪れてくれるか? おいしいものを食べたり、お土産を買ったりしてくれるのか? ただ単に駐輪ラックや空気入れなどを置いておけばいいというものではない。目的地に到達するまでのルート選びが意外と大切だということに気づいた担当者もいる。だから地域を知る人、自転車のことが分かる人、そして行政の担当などが知恵を絞りあって自転車観光を企画する必要があると真剣に考え、今では全国の随所で地域に根づいたサイクルツーリズムが展開している。

 共通の課題は、地域資源をどうやって自転車に乗る観光客にアピールしていくか。速く走るレース志向の人ではなく、もっとボリュームゾーンとなる一般の人たちをターゲットとするので、なにが求められるのかが分かりにくいという。議論の末に、「ここにしかない印象深い体験を」という答えを見出す。一般の人に訴えやすいのは食文化だ。

 サイクリングロードを整備するだけでなく、その町の強みである豊かな資源を活かす。それってフランスが昔から得意なことだ。

 世界の観光大国フランスも政府がインバウンド獲得の切り札として、これまで以上にサイクルツーリズムに力を注ぎ込んでいる。これまでも世界遺産の建造物や大自然、美食やワインのガストロノミーをアピールしていたが、それを紐づけてさらに魅力的にするアイテムが自転車だった。

 ここ10年ほどで道路にサイクリング推奨コースの看板を随所に見るようになった。その道でペダルを漕いでいけば、ワイン醸造シャトーがあり、インスタ映えする撮影ポイントもあるというわけだ。

 自転車はマイヨジョーヌを求めるプロ選手が時速50kmで走るだけが自転車ではない。こともできるが、ゆっくり走ったっていい。訪れた町の観光スポットを巡るだけなら車の移動でいいかもしれないが、その街にいたるアプローチから見聞を深めると。その町の素顔が分かり、その土地の人とふれあうチャンスが増える。