
第5・第6ステージでは、タデイ・ポガチャル選手が危なげなく首位をキープ。現地取材コラムでは、ツール・ド・フランス取材歴30年の筆者が体験した「フランスの食文化」を綴ります。フランスのレストランで感じた人間の温かみと残酷さとは。(取材・文/スポーツジャーナリスト 山口和幸)
2位と33秒差
マイヨジョーヌを守ったポガチャル
真夏のフランスを駆け巡る男たちの23日間、ツール・ド・フランスがいよいよ本格的に動き始めた。舞台は六角形をしたフランスにあって唯一スイスに食い込まれたあたり、ブルゴーニュ地方をひたすら北に進んだ。
大会6日目、7月4日の第6ステージはマコン〜ディジョン間の163.5kmで行われ、オランダチャンピオンのディラン・フルーネウェーヘン(ジェイコ・アルウラー)がゴール前のスプリント勝負を制して2年ぶり6回目の優勝を遂げた。

ほとんどの選手が大集団でゴールし、「同一集団はタイム差なし」という自転車レース特有の規則が適用されたので、総合成績ではUAEチームエミレーツのタデイ・ポガチャル(スロベニア)が難なく首位のマイヨジョーヌを守った。
7月5日にはニュイサンジョルジュ〜ジェブレシャンベルタン間の25.3kmで第7ステージとして個人タイムトライアルが行われた。この種目の世界チャンピオンであるスーダル・クイックステップのレムコ・エベネプール(ベルギー)がトップタイム。

12秒遅れの区間2位にポガチャルが入り、総合成績で2位エベネプールに45秒差から33秒差に詰め寄られたものの、マイヨジョーヌを守った。
ツール・ド・フランスの舞台は
ブルゴーニュ地方の“美食街道”へ
この2日間は大都市リヨンの北に位置するブルゴーニュ・フランシュコンテ地域圏が舞台となった。ソーヌ川沿いの豊穣な大地はとりわけ最上のワインを産む。マコンやディジョンはその象徴的な町で、隣接するリヨンとともに「ガストロノミー街道」として日本の食通も見逃せないエリアだ。

第6ステージのゴールとなったディジョン、第7ステージの発着地を務めた2つの町はブルゴーニュ・フランシュコンテ地域圏の中にあるコートドール県だ。日本語に直訳すれば「黄金の丘」。フランス最高級とうたわれるシャロレー牛などが有名。
過去のツールでは牛の丸焼きが関係者に用意されたこともあるし、今回のディジョンのプレスセンターでは焼肉用のトングがお土産だった。
コートドール県はパリを流れるセーヌ川の源流でもある。といっても標高は300m程度で、フランスが大平原であることがわかる。このあたりは川や湖も多いので、捕れる魚も豊富。さらにジューシーな鶏肉を使った料理も自慢。とにかく食文化が多様で、しかもハイレベル。それゆえに世界の料理界を牽引している存在だ。
このコートドール県を訪れるたびに、「俺たちの村には上等なワインと料理がある!」という言葉を思い出す。ツール・ド・フランス取材でまだ駆け出しだったとき、日本では絶対に経験できない衝撃を受けるとともに、「この自転車レースは単なるスポーツイベントではないのだ」と感じた、あの日の出来事だ。