今年も夏休みシーズンがやってきた。山でハイキング、河原でバーベキュー、海ではシュノーケリングと、この時期ならではのアクティビティに胸が躍るが、その楽しさの陰には、命をおびやかす危険な生き物が必ず潜んでいる。もしもクマ、毒ヘビ、クラゲなどに遭遇したら、どのように身を守ればいいのだろうか。
そんな疑問にこたえる本『いのちをまもる図鑑 最強のピンチ脱出マニュアル』(ダイヤモンド社)が発刊された。危険生物から身を守る方法から、ケガの応急手当てまで。あらゆる危険から身を守る方法を記した本書の発売を記念して、動物学者の今泉忠明先生へのインタビューを行った。
今回の記事では、ときに命懸けのフィールドワークを長年続けてきた今泉先生に「知っておくだけで生存率が上がる、海でのサバイバル術」を聞いた。有益なサバイバル情報はもちろんだが、今泉先生の危機一髪エピソードの壮絶さからも、目が離せない内容になっている。(取材・構成/澤田憲)

【海の最凶生物】死んだ後も人を刺す……。海岸で「青いビニール袋」を拾ってはいけない理由Photo: Adobe Stock

【毒クラゲの恐怖】刺されると、あまりの痛さで溺死することもある

――今泉先生は、『いのちをまもる図鑑』の第1章「危険生物からいのちを守る」を監修されています。本書の中では「海の危険生物」も紹介されていますね。夏に海で泳ぐときに、注意すべきことはありますか?

今泉忠明(以下、今泉):生き物で言えば、やっぱりクラゲに刺されることじゃないですか。特に夏は、カツオノエボシですね。本州の太平洋側の海岸に、大量に押し寄せてくることもあります。

――カツオノエボシに刺されると、どうなるんです?

今泉:別名「電気クラゲ」って言ってね、刺されると感電したように体がしびれます。激痛で息ができなくなって、最悪の場合は、そのまま溺れ死んじゃうこともある。それから一度刺された人が、もう一度刺されると、アナフィラキシーショックを起こしてショック死することもあります。

――それは怖いですね……。避けるにはどうすれば?

今泉:これがやっかいで、透明だから海の中では見えないんだよね。本体は10cmくらいしかないんだけど、毒の針がある触手は10mから、最長だと50mくらいまでのびます。

――小学校のプールの2倍の長さ……!

今泉:うん。台風やなんかの荒波で、この触手がちぎれたりするんだけど、本体から離れても毒は消えません。しかも触手に触れると、自動で針が発射される仕組みになっている。だから泳いでて、「寒天みたいなのが浮かんでるな」と思ってつかむと、グサグサ刺されちゃう。台風のあとは、そんなのがうようよしています。

――地雷原の中を泳ぐようなものですね。

今泉:海岸に打ち上げられたやつも、絶対触っちゃダメです。本体が死んでても関係ないから。打ち上げられたカツオノエボシは、ビニール袋に似ているんです。だから「ゴミを拾ってあげよう」なんて思って触ってしまい、刺されるケースもよくあります。

――特に子どもは興味本位で触ってしまいそうです。海岸で「青いビニール袋」みたいなものを見かけても絶対に拾わない。これは海に行く前に約束しておいたほうがいいですね。

【毒クラゲ対策】海水浴に行くときは、水筒にぬるめの白湯(さゆ)を入れておく

今泉:クラゲの対策は、毒ヘビと同じで、とにかく肌を出さないことです。刺胞の針の長さはせいぜい1mmくらいだから、薄い木綿のシャツを着ているだけでも針は刺さりません。

――刺されてしまったときは、どうすれば? よく、海水で洗って針を落としたほうがいいと聞きます。

今泉:真水で洗うと、浸透圧の影響で、毒針がより深く刺さっちゃうことがあるんです。だから、刺胞と浸透圧の差がない海水で洗ったほうがいいですね。ただね、洗っても針を完全に取り除くのは難しいですよ。目に見えないくらい小さいんだから。それに、針は細胞でできているから、究極的には抜かなくても問題はありません。それよりも問題は、毒のほうです。

――今泉先生が監修された『いのちをまもる図鑑』では、「お湯をかける」と書かれていますね。

今泉:そう。カツオノエボシに限らず、クラゲの毒はタンパク質でできています。そのため60℃以上になると変質して、無毒化するんです。だからといって、60℃のお湯をかけてはいけませんよ。やけどします。『いのちをまもる図鑑』の中では40~45℃のお湯に20分ほど患部を浸す方法を紹介しています。

――これは簡単にできますね。海に行くとき心配なら、水筒にぬるめの白湯を準備しておくといいですね。

今泉:あとはそうだな……。昔、離島で調査をしていてクラゲにさされたときは、ロウソクのロウを垂らしていました。ロウが溶ける温度が、ちょうど60℃です。かゆみ止めがない島での知恵ですね。

――人前で、半裸でロウソクを垂らされるのは、社会的に死んでしまいそうです。

今泉:じゃあ病院に、早く行こう。

――はい。

今泉:応急処置をしたあとは、病院に行って治療を受けてください。いいですか?

――はい、どうもすみませんでした。

【ゴンズイ・オニダルマオコゼ対策】靴をはいて足を守る

――ほかに気をつけたい海の危険生物はいますか?

今泉:身近なものだと、ゴンズイですね。千葉県より南の太平洋地域に多くいるナマズの仲間で、岩の間や砂底によくいます。背びれと胸びれに毒針があって、刺されると死にはしませんが、激しく痛みます。あとは、九州地方や沖縄近辺だと、オニダルマオコゼも危ない。

――岩みたいにゴツゴツした見た目の魚でしたっけ?

今泉:うん。背びれに猛毒があるんだけど、砂の中に隠れているから、知らずに踏んじゃうんだよね。強力な神経毒で、命を落とす危険もあります。出没地域を歩くときは、厚底のサンダルやブーツをはいておくと安心です。

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