汚い葉っぱでも「いいじゃん」ってほめてあげる

――先生は、子どもたちといっしょに、実際に山や森を歩いて生き物について学ぶ「けもの塾」という活動もされていますね。子どもたちには、現場でどんなことを教えているのですか?

今泉:何も言いません。「今日は〇〇しましょう」とか、そういうのはゼロです。動物や自然について、こっちが一方的に解説してくれると思ってる人もいるんだけど、そんなの本で調べればいいじゃないって思うわけ。

――意外でした。じゃあ、子どもたちと何をされているんですか?

今泉:最初に「ポリ袋を渡すから、みんな自分の好きなものを拾ってきて」って。それだけ。そうすると、虫とか葉っぱとか石とか、子どもたちはいろんな物を拾ってくるよ。それで最後に、収穫物をみんなで見ながら、「これは何だろうね」って図鑑を片手に調べてみる。それが何であっても、「すごいね、よく見つけたね」って、とにかくほめてあげることが大切ですね。

――教えることより、ほめることが大事?

今泉:そうすると子どもはね、こんな汚い葉っぱを拾ってきても「いいね!」って言うおっちゃんが世の中にはいるんだ、っていうことがわかる。つまり、何かの役に立たなくても、自分の価値を認めてくれる人がいるんだっていう安心感が大事なんです。そうすると「自分の好きなことをやっていいんだ」と思えるようになります。

――子どもたちが、それぞれ好きなことを見つけられるのも、自然の懐の深さですね。あらゆる物のルールが定められた都会では、行動の選択肢も限られていますし。

今泉:うん。だから都会で育った子は、山に行くと突っ立ってるよね。何していいんだかわかんない。「好きなことやんなよ」って言っても、「好きなことって何?」って突っ立ってる。

子どもから危ない遊びを取り上げると、逆に「命にかかわる」理由【じゃあ、どうすれば?】「けもの塾」で自然に触れた子どもたちは、短時間で驚くほどイキイキするという

――自然の中に入ると、子どもが普段どれだけ大人や周りに気を遣いながら生きているかが、あからさまにわかるわけですね。

今泉:だからね、まずは大人が子どもにかえんなきゃいけないのよ。「おれは大人だからそんなこと格好悪くてできない」なんて言ってたらダメなんだよね。泥遊びも山登りも、自転車と同じですよ。「こうすると楽しいよ」っていう手本を、まず大人がやってみせてあげる。そうすると、あとは勝手に遊ぶようになるから。

「正しく恐れる」ために、命にかかわる危険を知っておく

――今回、監修された『いのちをまもる図鑑』では、あらゆる場面での命にかかわる危険と、その対処方法が紹介されています。一方で、先生は「子どもがする危ないことを先回りして取り上げてはダメ」とも仰っていますよね。

今泉:そもそも「危険」とは何かって言うことです。それは「命にかかわること」ですよ。それ以外のことはね、多少危なくても、死なないならやらせてみたほうがいいって思うわけ。ちょっとケガするかもしれないけど、そういう経験こそ貴重だよ。

――例えば、刃物や火を扱うのも、自分でやらせてみたほうがいい?

今泉:うん。そばについていて、やらせないとダメ。逆に、痛みがわかんないと恐ろしさもわからないから、重大な事故にもつながりやすくなります。だから、経験ってのは大事だなと思うんですよ。
親がいくら言葉で危ないって言っても、子どもはなかなか実感できないよね。

――「正しく恐れられるようになる」ことが大事なんですね。危険をすべて取り除こうとすれば、それはそれで危険な方向に行ってしまう。

今泉:そう。だから『いのちをまもる図鑑』は、「最低限ここだけは子どもに教えておけ」っていう、人生の入試のポイントみたいなものだと思うよ。特殊な本のように見えるけど、常識の範囲内。これだけ知っていれば、命の危険は避けられるから。人生の半分は生きたと思っていいんじゃない? ジャングルに探検に行っても大丈夫よ(笑)

今泉忠明(いまいずみ・ただあき)
東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。国立科学博物館で哺乳類の分類学・生態学を学ぶ。文部省(現文部科学省)の国際生物学事業計画(IBP)調査、環境庁(現環境省)のイリオモテヤマネコの生態調査等に参加する。上野動物園の動物解説員を経て、現在は東京動物園協会評議員。『ざんねんないきもの事典』シリーズ(高橋書店)や『わけあって絶滅しました。』シリーズ(ダイヤモンド社)の監修もつとめる。

※本稿は、『いのちをまもる図鑑』(監修:池上彰、今泉忠明、国崎信江、西竜一 文:滝乃みわこ イラスト:五月女ケイ子、室木おすし マンガ:横山了一)に関連した書き下ろし記事です。