「早くやらなければ!」とわかってるのに、ついつい先延ばしにしがちな「実家片づけ」。「実家片づけ」をしないまま親が認知症になったり亡くなったりすると、「お金」「時間」「労力」という負担が子ども世代にのしかかってくるので、「実家片づけ」は”親が元気なうちに”取り組むことが大切です。とはいえ、ほとんどの親は、最初は片づけることに反対し、親子喧嘩に発展することもしばしばです。乗り気じゃない親を説得し、実家の膨大なモノや書類を片づけ、親が最期まで楽しく安全に暮らせる家にどう変えていくか……。親子だからこそ難しい「実家片づけ」のポイントを解説した、片づけアドバイザー石阪京子氏の最新刊『介護」「看取り」「相続」の不安が消える! 実家片づけ』から、そのテクニックを抜粋・編集してお伝えします。
昔の「実家片づけ」より、今の「実家片づけ」のほうが大変!
私自身、これまで2度、実家の片づけを経験しました。1回目は26歳のとき。結婚したばかりの夫の実家を片づけたのが最初です。
当時、義父はすでに他界。義母は神経の病気で長期入院しており、週末やお正月などにだけ家に帰る生活をしていました。けれども夫が結婚して家を出て、夫の実家には誰もいなくなったため、義母が外泊するときは私たちの新居に来てもらえばいいよねということで、実家を処分することになったのです。
当時はまだ改正されたリサイクル法(通称)の施行前。今なら、不用品の処分には莫大な手間やお金がかかりますが、当時はまだ家と不用品を一緒に処分することができたので、夫の実家片づけは比較的ラクに終わりました。
それに対して大変だったのが、本書の冒頭でも紹介した今回の、私の実家の片づけです。
母が転んだのをきっかけに「実家片づけ」を始める
私の実家は、私の自宅の近所にあり、両親が2人で住んでいましたが、母が2013年にパーキンソン病を発症しました。筋肉がだんだんと動かなくなっていく病気なので、根本的に治す治療は現時点ではありません。
そのため、母の体の状態に合わせて実家の環境を見直していく必要があり、2015年頃から段階的に「実家片づけ」に取り組んでいきました。
まず第1段階は「母が安全に暮らせる家」にすることでした。きっかけは母が怪我をしたことです。何かにつまずいてよろめき、咄嗟に手をつくことができず、顔から転んだのです。
そこで私は「母が車椅子で動けるように家を片づけよう」と提案しました。ところが、父は「そんなことをしたら筋肉が衰えてどんどん歩けなくなる」と言って大反対。そのため、母は杖をついたり、手すりにつかまったりして移動する生活をしばらく続けていましたが、数か月後にもまた転んでしまったのです。結局3回怪我をしたときにようやく父も折れ、母が安全に暮らせる家を目指して片づけを決行。
車椅子でも生活できるように家具や不用品を減らし、母の生活の拠点を2階から1階に移動しました。
しかし、その後も母の病状はしだいに進んで嚥下機能が落ち、2021年に誤嚥性肺炎になったのをきっかけに入院することになりました。コロナ禍だったのでお見舞いに行くこともできません。
体の状態も悪化しており、入院したままお別れになってしまうのは辛いので、最期は自宅で看取ろうということになり、母の「介護部屋」を作ることにしたのが、実家片づけ・第2段階です。
その際に、父と連日喧嘩しながら、リビングにあったソファなどを片づけ、代わりに母の介護ベッドや吸引器などの介護グッズ、母を介護する父のためのベッドなどを置き、母が最期まで過ごせるスペースを作りました。
この場所で母は、人生の最期のときを父とペットの猫、時には私たち夫婦や孫と一緒に過ごすことができたのです。
そして、2023年の3月に、母は旅立ちました。
翌日にはリビングに祭壇を作り、身近な親戚だけでアットホームな自宅葬をして見送りました。最後まで母らしく旅立たせてあげられたと思います。
実家を片づけて、母を最期まで自宅で看取ることができて本当によかった……。さんざん私と喧嘩をした父も、今では心からそう思っているようです。
そして、今度は、ひとりで残された父が安全に生活しやすいように、私の「実家片づけ」は今もゆるやかに継続中です。
親が“元気なうち”に取り組むことが大事
「実家片づけ」が終わっていないと、いろいろな不安があると思います。
「部屋が散らかっているせいで、親が怪我をしたらどうしよう」
「介護が必要になったら、どうすればいいんだろう」
「親は老後の資金をいくら持っているんだろう」
「通帳や不動産などの大事な紙はどこにあるんだろう」
「亡くなったとき、相続の手続きがスムーズにできるだろうか」
安心してください。それらの不安は、「実家片づけ」をすると一掃されます。
まず、モノを片づけると家の中の安全性が高まるので、怪我をするリスクが減ります。また、部屋が片づいていれば私の母のように介護サービスを受けやすくなるため、介護の負担も減らすことができます。
さらに、不動産や株式などお金にまつわる大事な紙を片づけると、お金に対する漠然とした不安が消えます。親の財産を知る機会にもなりますし、それに応じて、適切な税金対策をとることも可能です。相続もスムーズなので、余計な時間や労力、ストレスがかかりません。
それに何より、親が亡くなってから片づけをするのは辛いものです。遺品整理になるとすごく辛い。
コップ一つ、文房具一つに思い出が詰まっています。それなのに、「それは捨てていいよ」と言ってくれる人がいなくて、全部自分でゴミ袋に入れていかなくてはいけません。だから逆に思いが募って、手を動かせなくなります。そうならないためには、親が“元気なうち”に実家片づけに取り組むことがとても大切です。
今、父は片づいた家で一人暮らしをしながら、趣味のそば打ちをしたり、旧友を招いたりして充実した生活を送っています。そんな父の姿を見ていると「たくさん喧嘩もしたけど、実家片づけをしてよかった」と、心から思います。
やっぱり、子どもは親が楽しそうに暮らしているところを見ると嬉しいものです。
人生100年の時代です。最期まで自分らしく、自分の家で、楽しく生活してほしい。そのためには、生活の基盤である家を整えることが欠かせません。
子どもである私たちが、介護や看取り、お金の不安を消すことはもちろん、親自身もより一層、人生を輝かせるために行う。それが「実家片づけ」なのです
*本記事は、石阪京子さんの最新刊『「介護」「看取り」「相続」の不安が消える 実家片づけ』から、抜粋・編集したものです。