ラハイナ地区に残る災害の爪痕
電力の遮断が地域社会にもたらす影響

 2024年7月15日現在、最も甚大な被害を受けたラハイナ地区には、許可証なしに入ることはできない。しかし幸いにも、大火災の発生前に、ラハイナの渋滞を緩和するバイパス道路(国道3000号線)が完成していた。火災が続く中、ラハイナより北のリゾート地に取り残された人々は、このバイパスから救出された。

 そして今も、住民や観光客は、このルートで北西部のカアナパリやカパルア方面へ通り抜けることができる。「バイパスのおかげで、マウイ島の住民はラハイナから北を諦めずに済んだ」と、在住24年の日本人タクシードライバーRさんは言う。

 バイパスは山側にあり、車窓からは乾燥した山肌や枯れ草が見える。オアフ島のコオリナ方面もそうだが、マウイ島も西側は雨が少なく、強風時には草が擦れ合うだけで発火することもある。市街に張り巡らされた電線には木が覆い被さり、断線がいつ起きても不思議ではない。それが分かっていても、民間の電力会社に私有地の木を切る権利はない。

ハワイ・マウイ島大火災の「爪痕」を現地レポート、日本の震災復興体験が現地にもたらしていた“光”とはマウイ島北西部(Google mapより)

 ハワイ電力とマウイ電力は、マウイ郡や住民、株主から大火災時に送電を遮断しなかった責任を問われ、提訴された。同社の株価は下がり、高額な裁判費用も経営を圧迫している。これらは、やがて電気料金の高騰をもたらす。結局は、ブーメランのように住民に返ってくる可能性が高い。住民の意見は分かれている。

 そうした状況の中、2024年7月、ハワイ電力は、強風や乾燥時に危険地域への電力供給を遮断する公共安全電力遮断プログラム(PSPS)を開始した。裁判の決着はついていないが、今後の予防措置としての決断である。

 ハワイ電力は、PSPSの実施に伴い、ウェブサイト上で居住地が山火事危険区域内にあるかを検索できる機能も公開した。エネルギーをほぼ100%電気に依存しているマウイ島では、電気が止まれば水道も止まる。天候が回復し、人やドローンによる送電線の点検が終わるまで、停電は長期間にわたって続く。住民もそれを覚悟しなければならない。

 このように、電力の遮断が地域社会に与える影響は大きい。民間の電力会社だけで責任を負う話ではなく、中長期的に、行政やコミュニティ全体で取り組まなければならない問題である。