早期教育の良さや必要性を語る人は多い。10年連続で算数オリンピック入賞者を輩出している彦根市発の知る人ぞ知る塾「りんご塾」の塾長、田邉亨氏もその一人。彼が勧めるのは「算数」の早期教育だ。「計算」に注力する親はいても、「算数」に力を入れる親はあまりいないのだという。受験になったときに、数学はかなり進路を左右する科目だが、なぜ「算数」に注力する親は少ないのだろうか。本記事では、田邉氏の初著書『「算数力」は小3までに育てなさい』の内容をもとにその理由を解説する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

「算数力」は小3までに育てなさいPhoto: Adobe Stock

小学校高学年で算数に躓く理由とは

 算数って、苦手。

 筆者がそう思うようになったのは、忘れもしない小学校4年生の頃。面積の辺りでつまずき、テストでそれまでないようなひどい点数を取ったことをいまだに覚えている。

 それまでは、授業を聞いていれば内容にはついていけていたので、なぜ急にわからなくなったのか、自分でも不思議だった。

 なので、田邉氏が述べている内容には大変驚いた。

子どもの早期教育で「計算」に注力する親はいても、「算数」に注力する親はあまりいません。なぜなら、小3までの算数はとても簡単だからです。(中略)
それは大人の思い込みではなく、子どもたちにとってもそう。むちゃくちゃ簡単。だって、「12÷2=6」とかですよ? 掛け算ができて、割り算を理解していたら反射神経で解けます。(P.28-29)

 田邉氏は、さらに次のように続ける。

ところが、実はあとで一番問題になるのは「算数なんて簡単だ」と思っている、算数が得意な子どもなのです。
そういう子は、4年生以降、思考力を問われる問題が出るようになったり、進学塾に通うようになったりした途端、算数が苦手になることがよくあります。
なぜなら「自分の頭で汗をかいて考える」という練習ができていないから。(P.29)

 おお、まさに筆者のことではないか! 一体どうすればもっと算数を好きになれたのだろうか。

「計算」とは違う、「算数」で身に付く力

 算数といえば「計算」というイメージが強いが、田邉氏によると「算数は本来、試行錯誤して解くもの」なのだそうだ。

 にもかかわらず、小3までの算数は「手順さえ覚えておけばできるから、テストのときも『あれをここに当てはめれば解ける』というような解き方をする」と指摘する。

 確かにその方法だと、考えて答えを導き出すというよりも、暗記科目に近いのかもしれない。

 田邉氏が運営する「りんご塾」では、算数オリンピックの入賞者をたくさん輩出しているが、小3の子が解いている問題は、意外と難しいのだという。

 例えばこんな問題だ。

下のたし算の式でカタカナとアルファベットは、どれも1から9までの1けたの数で、同じ文字は同じ数、ちがう文字はちがう数が入ります。
Eに当てはまる数はいくつですか。


【サ】+【ン】+【ス】+【ウ】+【キ】+【ッ】+【ズ】+【B】+【E】+【E】=52
<2012年 キッズBEEトライアル大会>
(P.33)

※答えは記事の最後に記載。

 小3までの知識で解ける問題ではあるのだが、大人でもパッと答えが出てくるものではない。

 でも、「どれどれ、解いてみせようじゃないか」という気持ちにさせられないだろうか。

 算数オリンピックの問題は、このように計算自体は難しくないけれど、頭をひねって考えないと答えを導き出せない問題ばかりなのだ。

 これらの問題を解くには、ただ計算ができればOKではなく、頭をひねって考える力が必要になる。

あれこれ考えて問題を解く面白さを体感させて

 田邉氏は、こうした問題を早期に正しく楽しく学ぶことを勧めている。

 実際、りんご塾の子どもたちはこういう問題を「面白い!」「こんなの初めて見た!」と、夢中になって解いているのだという。

 近年のクイズブームを見ていても、頭をひねって問題を読み解く面白さに子どもたちが夢中になっている。

 そのことを考えると、子どもが算数に「ハマる」瞬間が来るのも不思議ではない。

 難しい問題であればあるほど、面白い。そういうふうに思えるようになれば、きっとどんな勉強も楽しめるようになるに違いない。

 もし、あなたのお子さんがまだ小学校低学年であるならば、ぜひ算数を楽しめる経験をさせてあげてほしい。

 筆者のように4年生になった途端「算数嫌い!」とならないためにも。

<答え>
【サ】【ン】【ス】【ウ】【キ】【ッ】【ズ】【B】【E】は全部で9個なので、1~9の数字がそれぞれに1個ずつ入ることになります。

このことから、【サ】+【ン】+【ス】+【ウ】+【キ】+【ッ】+【ズ】+【B】+【E】=1+2+3+4+5+6+7+8+9=45

【E】だけ2個あるので、【E】=52-45=7

よって、答えは7になります。
(P.34)