「二兎を追う者は一兎をも得ず」のはずが
友人はすでに二兎を得ている

 一方でDさんのご友人は、40代で有名企業勤務ということなので、年収は1200万円ほどあると思われます。日本人の平均給与の約2.5倍です。これから定年退職するまで、約20年間にわたってその年収が保証されるのであれば、多少はやりがいがなくても我慢できるのではないでしょうか。

「二兎を追う者は一兎をも得ず」という諺(ことわざ)がありますが、ご友人は三兎を追っています。言わずもがなですが、一匹目が「収入」、二匹目が「会社の知名度」、三匹目が「やりがい」です。これら全てのウサギが同じ大きさで、白くてふさふさの毛をしていないと、ご友人は満足できないのでしょう。

 でも実際は、三匹目のウサギが少し黒くて、小さくても仕方ないじゃないですか。私ならそうやって割り切りますね。普通の人が一兎も得られないところ、諺の教えを覆して、ご友人はすでに二兎を得ている。彼の仕事人生は成功しているので、Dさんからはとやかく助言しない方がいいかもしれません。

 念のためお伝えしておくと、それでもご友人が三匹目のウサギ(やりがい)を追求するならば、残り二匹のウサギ(収入・会社の知名度)は相当小さくなるリスクがあります。誰も知らない会社で、年収は半分になる。そんな未来も十分にあり得ます。

 ご友人はそれで満足できるのでしょうか。彼が「消費を好まず、たくさん稼いでも使い切れない」「銀行の預金残高が増えても面白くない」という性格であれば、前向きに働ける可能性もあります。

「やりがい重視」の成功例を挙げると、私はとあるヤドカリ屋を贔屓(ひいき)にしています。実はヤドカリを飼うのが趣味なのでね。そのお店の店主はあらゆるヤドカリに精通していて、希少なヤドカリが入荷すると連絡をくれます。

 数あるペットショップの中でもヤドカリをメインに取り扱っているお店は、おそらく日本中を探しても極めて少数派でしょう。そのお店は「ヤドカリ専門」という特異なコンセプトだからこそ、ヤドカリマニアの間で高い認知度を誇り、尊敬も勝ち取ることができました。収入がどれくらいあるかは分かりませんが、ニッチであるからこそ成り立っているのでしょう。