このうち貿易収支赤字拡大の原因は、資源価格高騰に伴う交易条件の悪化、人手不足の深刻化に伴う輸出数量の減少、研究開発投資の不足による輸出価格の低迷にある。サービス収支赤字拡大の主因である、コンピューターサービス収支、研究開発サービス収支、専門・経営コンサルティングサービス収支の赤字も、人手不足や研究開発投資不足を背景とするものだ。

 研究開発投資不足や交易条件悪化、そして人手不足はいずれも、日本経済の潜在成長率を相対的に低下させる。すると投資期待収益率の国内外格差は拡大し、金融収支面からも円売りの圧力がかかる。さらに、かつて存在した円高期待が反転し、円安が今後も進むと予想されるようになると、金融収支を通じた円売りが一層加速してしまう。

 このようなプロセスを経て円安スパイラルが生まれる。これに歯止めをかける方法は、エネルギー自給率の向上によって交易条件の悪化を食い止め、人口問題に対処し、研究開発を増進することで輸出競争力を改善するほかない。つまり、円安スパイラルから脱却するには長い時間を要する。

 昨今は日本銀行の利上げや資本規制の強化などが、短期的な円安の回避策として支持されがちだ。しかし、本質的に無意味な政策にリソースを空費するのではなく、少子化対策やエネルギー転換、研究開発に本腰を入れるべきだ。

(みずほ証券 エクイティ調査部チーフエコノミスト 小林俊介)