競争が激しい外食産業において、ひときわ注目を集める企業がある。それは、銀座・新橋を拠点に、「俺のフレンチ」や「俺のイタリアン」など15店舗を展開する「俺の株式会社」だ。

「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」は、2012年末の日経MJヒット商品番付(前頭十一枚目)にもランクインするほどの話題を呼んだ。予約は1ヵ月前から受付け開始となるが、電話が繋がらないことでつとに知られ、立ち飲みがメインの店内は、閉店まで混雑が続く。

 オープンキッチンで腕をふるうのは、星付きのグランメゾンから集まった超一級のシェフたちだ。イタリア・ミラノにあるミシュランの三つ星レストラン「アンティカ・オステリア・デル・ポンテ」で修業を積んだ山浦シェフや、「ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション」の大渕・元シェフ、「シェ松尾」の能勢・元料理長らが華やかに競演する。

 そこから生み出される料理は、「牛ヒレとフォワグラのロッシーニ」(1344円)、「活オマールのロースト」(1344円)、「卵の包み揚げ キャビア添え」(1480円)、「フォアグラのピッツァ」(980円)……など、ミシュランの味わいを提供しながらも、高級店の3分の1程度の価格帯だ。客単価も3000円台と破格である。

 さらに特筆すべきは、その原価率の高さ。通常飲食業界では、食材費のうち原価率は25~30%とされるが、「俺の」の場合は驚くべきことに40~60%という高水準だ。最高級の素材と技術……、さらには銀座・新橋という舞台が揃い、客の満足や感動を生んでいるのだ。

 この仕掛け人であり、前述の「俺の株式会社」の指揮を執るのは、何とあのブックオフの創業者・坂本孝氏である。彼は2009年に飲食業界に参入。人気店100店以上を徹底リサーチし、ようやく「立ち飲み屋」と「ミシュラン」のコラボという業態に辿り着いた。

 そして、「いい食材を惜しみなく使い、原材料費と人件費は湯水のごとく使ってほしい」と常にシェフたちに指示するという。いわば「素人」「よそ者」ならではの、常識に囚われない考え方が奏功し、支持を集めたのだ。

 それでは、なぜこのようなスタイルが実現可能なのだろうか。その秘密は、圧倒的な回転率の良さにある。1日2回転でほぼ収支は合う計算だが、時に4回転に達する店もあるなど、その効率や収益性は抜群だ。

 また、人材の確保については、引き抜きではなく、人材紹介会社を通じて人選を行い、高水準の報酬を設定する。その上で、支配人とシェフには食材選びからメニュー、値段、サービス、オペレーションの全てを委ねて士気を高め、店舗間を競わせることで、より競争力のある店舗運営へと高めていくのだ。

 同社では、フレンチやイタリアンに続き、焼き鳥店や割烹も次々にオープンさせており、近い将来の株式上場も目論んでいる。そんな飲食業界の革命児が、次にどんな戦略で仕掛けてくるのか……。食べることに目がない1人としても、注目していきたい。

(田島 薫/5時から作家塾(R)