急速に進む高齢化、他業種から高齢者事業に参入する企業も

 中国の37年間にわたる「一人っ子政策」は、少子高齢化を加速させた。今年1月の政府統計によると、昨年末時点で65歳以上の高齢者率は15.4%で、2億1600万人を超えている。さらに、1962~63年のベビーブーム世代が今後膨大な高齢者予備軍となり、2035年には高齢者人口が3億3000万人に達すると予測されている。

 国家情報センターによると、高齢者ビジネスの市場規模は現在約140兆円で、2035年には約600兆円になると試算されている。政府も高齢者ビジネスを後押しする政策を次々と打ち出しており、今年1月には国務院が「銀髪経済(シルバー経済)の発展に関する意見」を発表した。この政府方針は、国の政策に左右されやすい介護業界にとって朗報といえるだろう。

 コロナ禍の終息後、中国経済の成長が鈍化している中で、業績がふるわない企業が増えている。そんな中で生き残るために、成長の見込みがある高齢者事業にモデルチェンジする企業が急増しているのだ。筆者が訪れた冒頭の展示会が極めて盛況だったのも、こうした事情が背景にあると考えられる。

日本に勝機はあるか?中国で介護施設の入居率が低い理由

 しかし、この盛況ぶりとは裏腹に、厳しい数字がある。2022年12月に北京師範大学などの研究機関が共同調査を行い発表したレポートによると、中国の介護施設のベッド数は488万あるのに対して、平均入居率は5割に満たず、45.5%という低水準にとどまっている。

 その理由は、中国には日本のような介護関連の社会保障制度が完備されていないため、ほとんどの介護サービスが日本でいうところの「保険外のサービス」になってしまうことだ。このため、介護施設を利用する場合、それなりにまとまった金額が必要となる。介護施設を運営する事業者側にとっても、日本の介護保険収入のように安定的な収益は期待できないという面がある。加えて、中国の経営者たちは「コロナ禍の3年間の打撃が大きかった」と口を揃える。そのしこりが今も残り、「事業を継続するのに本当に大変だ」という声が聞かれた。

 このような厳しい環境下でも、中国市場でビジネスを展開したいと考えている日本企業はいる。しかし、社会保険制度の問題に加え、生活習慣や文化、考え方の違いなど、さまざまな障壁があるのが実情だ。正直なところ、日本の介護事業者にとって、中国市場の開拓は容易ではない。果たして、日本企業に中国市場での勝機はあるのだろうか。