上海の人気日系介護施設を見学

 そんな中、筆者は日本の特定医療法人「研精会」(東京都調布市)が上海近郊で運営する介護施設「澳多花園・研精頤養院」を見学した。この施設は中国で唯一、日本企業が全額出資し運営している介護施設である。有名な観光スポット・朱家角の近くにあり、オーストリアのデペロッパーが開発した約1000戸の高齢者住宅団地の中の一棟を借用し、温かい雰囲気の部屋や最新設備の浴室・リハビリ室を備え、居心地がよくて機能性の高い空間を実現している。アッパーミドル層を対象に94床を有し、オープンから1年足らずで4割の入居率を達成して、注目を集めている。

研精会が上海で運営する「澳多花園・研精頤養院」(筆者撮影)研精会が上海で運営している「澳多花園・研精頤養院」(筆者撮影) 拡大画像表示

 研精会インターナショナル副社長の陸應副氏は、「今は各方面からの見学が絶えない。それは日本のブランドを信頼している証拠です。我々は、こうした信頼を裏切らないように、現地の事情や文化に合わせてアレンジしながら、最大限に日本の介護理念をしっかり実現したいと思っています。そのため、時間はかかりますが、日本の介護に賛同し求めてくる入居者のためなら、努力を惜しみません」と話す。「同業者の中には、地元のいろいろな事業者と手広く連携して事業を拡大する会社もあります。しかし我々は、日本の介護とは何か、自立支援、認知症ケア、ADLの向上などを用いて、中国の介護と差別化し、結果を出すのが目標です」と力強く語った。

中国市場における日本企業の今後

 一方、中国の介護業界関係者は日系企業をどう見ているのだろうか。介護IT関連用品で中国市場シェア1位の「惠州頤訊信息技術有限公司」の社長で、中国の介護業界に精通する楊汪宝氏に話を聞いてみたところ、「今のところ、中国で成功していると言える日本の会社はまだないと思う」と指摘する。

「近年、中国の多くの国有企業がものすごい勢いで介護市場に参入し、競争が一層激しくなってきています。『介護なら日本に学ぶ』という風潮がありますね。だから毎年、多くの視察団が日本へ行き、私も数回参加しました。なので、日本というブランドが今は健在です。しかし、将来は分かりません。なぜなら、中国の介護も日進月歩で大きく進化していますから。日本の介護の強みである認知症ケアに関しても、北欧やフランスなど(の事例)を学んで、大きな成果を出している国内の事業者が増えていますので、いずれ中国が日本を追い越す日がやってくるかもしれません」(楊汪宝氏)