ただ、個人的には政府が過度に危機を煽ってしまった気持ちもわからんでもない。危機管理の仕事をしていると、組織内部には必ず「危機に備えること」に後ろ向きな人が一定数いて、物事が一向に進まないからだ。

 彼らは危機管理体制の構築や、不祥事発生を想定したトレーニングなどが必要だと筆者が主張をすると、「そんないつ起きるかわからないことに予算や時間をかけるのは合理的ではない」とかなんとか反論をして、「備えよりも今が大事だ」という方向へともっていく。

 しかし、面白いもので、そうやって危機管理を軽視する幹部がいる企業に限って、会社に深刻なダメージをもたらすような不祥事が起きがちだ。経営者がボロカスに叩かれる炎上会見の報道を目にして、「ああ、あのときにもっと話を盛ってでも、危機意識を高めてあげておいたほうがよかったかな」と悔やむことは一度や二度ではない。

 官僚や学者が「予算獲得」という下心を持つのは紛れもない事実なのだが、一方で「危機意識ゼロの人たちを動かす」という目的のため、いたしかたなく確信犯的に「危機を煽る」という手法を選ぶ場合もあるのだ。

 そこに加えて、日本政府が「南海トラフの恐怖」を過度に煽ってしまうのには、もうひとつ大きな理由があるのではないかと思っている。