大量生産・大量消費・大量廃棄の「線形経済」から、持続可能性を高める「循環経済」への移行は地球規模の大テーマだ。企業にとっては売り切り型から“使い続け”型へのコペルニクス的転回を意味する難事業だが、サステナビリティや経済安全保障などの社会的課題と企業成長を同時に実現できる大きなチャンスでもある。B2CとB2Bの領域において、使い続けモデルへのトランジションに挑む2社の事例を紹介する。

再生品事業を本格スタート
家電の循環スキームを強化

 パナソニックが家電のサーキュラーエコノミー実現に向け、新たなチャレンジを始めた。2024年春、自社製品を再生・販売する新事業を「Panasonic Factory Refresh」(以下PFR)として本格的にスタートさせたのだ。サブスクリプション(定額利用)サービスの契約終了品や初期不良品、店頭展示の戻り品などを対象に、自社拠点や厳格な出荷基準をすべて満たした協力会社で再生。1年間の保証付きで販売する。公式ショッピングサイト「Panasonic Store Plus」で取り扱っており、一部商品はサブスクでの利用となる。

 同社では2023年12月から、再生品の販売をドラム式洗濯乾燥機と4K有機ELテレビで始めていた。ドラム式洗濯乾燥機の再生品購入者に対して同社が行ったアンケート調査では、総合満足度は89%に達し、「価格面やSDGsの側面から見てもいい買い物ができた」「中古品と感じさせない仕上がり」といった評価を得たという。

 こうしたニーズに応えて、2024年4月からPFRの販売ラインアップに冷蔵庫やミラーレス一眼カメラ、ポータブルテレビなど、さらに9月から電子レンジと炊飯器を加え、計10カテゴリーで商品を展開している。販売価格は、商品ごとのニーズや在庫状況、商品の状態などによって変わるが、新品よりお買い得な価格で購入できるとあって、消費者の反応は上々だ。「Panasonic Store Plusにリファービッシュ(再生)品を掲載すると、すぐに売り切れてしまうほどです」と、同社コンシューマーマーケティングジャパン本部主幹、髙木雅弘氏は語る。

「使い続け」モデルへのビジネストランジション戦略パナソニック コンシューマーマーケティングジャパン本部政策企画部部長の岡田静一郎氏(左)と同本部主幹の髙木雅弘氏。

 パナソニックは2023年、国内B2Cマーケティングにおける「新たな商売の基準」を発表、ビジネスモデルの転換に取り組んできた。その柱は、ユーザーが安心して使い続けられる取り組みの充実化、サーキュラーエコノミー実現に向けた循環スキームの強化、の2つである。つまり、売り切り型から使い続け型へのトランジション戦略といっていい。

 新たな商売の基準で世の中から注目を集めたのは、新販売スキーム、いわゆる指定価格制度だ。パナソニックが小売店の在庫リスクに責任を持ち、返品を受け付ける代わりに小売店は指定された価格で販売する。

 家電製品の多くは、新製品の発売から一定期間が過ぎると値引き販売が始まり、1年も経つと大幅な値崩れが起きることが常態化している。それを防ぐためにメーカーはマイナーチェンジした商品を毎年発売せざるをえないが、それは資源の無駄遣いにつながるし、メーカーは腰を据えて価値ある商品を開発する時間をつくれない。

 パナソニックの新販売スキームは、高価値商品を対象にしており、現在は全体の3割ほど。対象商品は2年、3年と販売を続けられるようになり、「お客様の期待を超える価値を持つ新製品を開発する体制が徐々に整ってきました」と、同本部政策企画部部長の岡田静一郎氏は手応えを述べる。

 PFRはこの新販売スキームの対象商品を中心に再生しており、価値ある商品を開発し、それを長く使い続けてもらうという点でPFRと新販売スキームは表裏一体。売り切り型から使い続け型への転換を目指す諸施策の一環なのである。

 商品のモデルチェンジのサイクルが長くなれば、全体のモデル数が減り、一つのモデルについて修理やメンテナンスのために保有する部品数を増やしたり、長期化したりすることができる。その点からも、使い続け型へ近づく。