不良のクルマ改造は
ファッションに通じている!

 さて、本題です。不良(いいですね、不良という響き!)がタイヤを“ハの字”にする理由は、レーシングカーに寄せたドレスアップの一環です。キャンバー角を強めに設定する場合も、実際のレーシングカーはそれほど極端な“ハの字”にはなりませんが、不良のドレスアップは極端が基本です。

 ファッションの世界を見てみるとよく分かります。不良が学生服の襟の高さを上げるとき、上着の裾を伸ばすとき、ズボンの幅を広げるとき。全て極端ではないでしょうか。彼らにとっては、こうしたカスタムがカッコイイのです。

「タイヤがハの字」のクルマ、たまに見かけるけど何のため?→専門家の解説が的確すぎた!Photo:PIXTA

 こうした極端な“ハの字”の改造は、「強度のキャンバー角」を意味する「鬼キャン」と呼ばれます。改造のベースとなるクルマは、実は国産高級セダンであることが多いです。具体的には、トヨタ自動車のレクサスLSやクラウンなどが挙げられます。

 改造を施した高級セダンは「VIPカー」とも呼ばれます。VIPカーを好む不良はフォーマルなクルマに乗りながらも、人とはちょっと違うんだぞという主張をしているわけです。この文化もファッションに通じています。学生服もフォーマルな服装ですが、不良は裏地に昇り龍の刺繍を施すなど、ちょっと人とは違う加工をしますよね。

 そういえば大谷翔平選手も、今夏のMLBオールスターゲームの「レッドカーペットショー」で、愛犬“デコピン”を裏地にあしらったスーツをまとっていました。彼は不良ではありませんが、フォーマルな中に遊び心を持ち込んだ好例だと言えます

「タイヤがハの字」のクルマ、たまに見かけるけど何のため?→専門家の解説が的確すぎた!Photo:Gene Wang/gettyimages

 さて、クルマの改造に話を戻します。VIPカーだけでなく、ドリフト走行用のスポーツカーも「鬼キャン」のベースとして使われがちです。ドリフト走行用のベース車は後輪駆動車です。現在は中古車しか存在しませんが、日産シルビアやマツダRX-7などがメジャー。新車が購入可能なクルマなら、トヨタ86や日産スカイラインなどといったところです。

 ドリフト走行ではクルマが横滑りした際、リヤタイヤの滑り量をアクセル、フロントタイヤの滑り量をステアリング操作でコントロールしてクルマの姿勢を整えます。横滑りする際の速度やエンジンの出力によっては、キャンバー角を大きくとった「鬼キャン」がコントロールしやすい場合もあるのです。