特筆したいのは後部座席だ。後輪駆動であるのにセンタートンネルがない。フラットな床は非常に心地が良い。

後部座席後輪駆動なのに、後部座席の床がフラットなのはうれしい Photo by F.Y.

時速100kmでも驚きの静かさ、乗り心地はメルセデス最上級

 スイッチをONにして走り出す。全くの無音。恐ろしいほどの静けさ。速度を上げても変わらない。もともと静かなEVは、速度を上げるとタイヤが発するロードノイズが気になるものなのだが、それも完璧に封じられている。時速100kmでここまで静かなクルマには乗ったことがない。大昔のソアラの宣伝文句ではないが、まさに未体験ゾーンである。ICEのSクラスとは比べものにならないくらいの静寂性である。

 それにしても、この乗り心地の良さはどうだ。鏡のような湖面を、細い漕艇(そうてい)がオールを上げてスーッと進んでいくような印象だ。道路の継ぎ目も、エアサスペンションが優しく柔らかく吸収する。間違いなくメルセデスのラインナップの中で最上級の乗り心地。

 車重は2560kg。重いクルマならではの安定感も良い。白眉は山道でのコーナリングだ。俊敏にして重厚。これも明らかにICEのSより優れている。位置づけとしてはショーファードリブンになるのだろうが、ぜひとも自分で運転したいクルマである。

※ショーファードリブン…クルマの所有者ではなく、お抱え運転手が運転する用途が想定されている高級車のこと。運転席よりも、後部座席のほうが快適になるよう設計されている。

 運転してよし、後ろに乗ってよし、排出ガスもなく環境にも(少なくとも自分だけは)ヨシ。三方ヨシの高級EV、メルセデス・ベンツ EQS。名門メルセデスがEVを造ると、EVはかくも“らしく”なるのである。

 それでは最後にメルセデス・ベンツEQSの◯と×を。