映画『フラガール』の舞台として有名な、福島県いわき市のリゾート施設「スパリゾートハワイアンズ」。運営するのは、明治期に炭鉱経営を始め、時代と共にリゾート経営にシフトした老舗企業、常磐興産だ。代々続いてきた地元出身の生え抜き社長から、初めての外部出身者として経営を任された元銀行員の井上直美社長は、震災を乗り越えたリゾート施設にどんな未来を見ているのか。(取材・文/フリージャーナリスト・室谷明津子)
リゾート施設なのにお金がない!
ハンデ付きで始まった経営
常磐興産の社長に就任したとき、自分に課せられた使命は「絶対にこの会社をつぶさないこと」だと認識しました。常磐興産が運営するスパリゾートハワイアンズは、東日本大震災からの復興費用として100億円の資金調達を行いましたが、経営は火の車。2012年度はグループ全体の売上高467億円に対して、有利子負債が約330億円にまで膨らんでいました。
震災後すぐに、斎藤一彦前社長(現相談役)が復興への願いを込めて「フラガール全国きずなキャラバン」を行い、多くの方が共感してくださいました。そのおかげもあって営業再開後の集客は順調で、私が就任した13年の時点では借入金の返済も再開できましたが、まだお金が使えない状態は続いていました。
1950年、東京都生まれ。74年東京大学経済学部を卒業、富士銀行(現みずほ銀行)入行。2005年同行常務執行役員、07年同常務取締役。08年にみずほ情報総研専務取締役、10年同社長就任。13年、常磐興産に顧問として入社、同年6月より現職。Photo by Kazutoshi Sumitomo
危機状態は乗り越えたものの、創業50年を迎えたばかりのスパリゾートハワイアンズの「次の50年」に私は貢献することができるのか。そもそも、装置産業であり、常にお客様に新鮮な喜びを与えなければいけないリゾート施設において、設備投資にお金をかけられないというハンデを背負って、事業を成長させていくことは可能なのか。課題が山積していました。
そこでまず、会社のコアコンピタンスを把握するために、徹底的に現場を知ることにしました。東京ドーム6個分の敷地にあるテーマパークと宿泊施設を6時間かけて歩き回り、舞台裏の電源設備まで隈なく見たので、案内してくれた社員は音を上げていましたね(笑)。フラガールの練習や、清掃員の朝礼にも顔を出し、業務オペレーションがどうなっているのか、企業風土はどうかなど、自分の五感で確認していきました。
私は大学卒業後に富士銀行(現・みずほ銀行)に入行してから、数々の企業の盛衰を見てきました。特にバブル崩壊後のデフレ社会では、コアコンピタンスと経営努力がない会社は生き残れず、多くの企業が淘汰されていきました。常磐興産はバブル崩壊と未曽有の震災という2つの危機を生き延びた会社です。スパリゾートハワイアンズには、必ず強力なコアコンピタンスがあるはずだと思いました。