――伊勢谷さんは、東京藝術大学在学中にモデルとしてデビューし、その後は俳優や監督、実業家として活動してきました。伊勢谷さん自身も「デザイン思考」で人生設計をしてきたのでしょうか。

伊勢谷 いま振り返ると、20代の頃までは、走りながら人生をデザインしてきたという思いがあります。最初は映画が大好きで、映画監督を一つの目標としていた時期もありました。

 でも、1本目の映画を撮り終えたとき、「映画監督という立場では、自分が本当にやりたいことは実現できないな」と思ったんです。僕が本当にやりたいことは「社会に横たわっている大切なテーマを世の中の人たちに知って、感じてもらうこと」だと気づいたんです。その目標を達成するためには、別のアプローチがある……その気づきが、リバースプロジェクトの活動へとつながっていったんです。

 リバースプロジェクトでは、「廃棄されている物を再生し、価値あるものを生み出して、その利益で生活できる仕組みを作れば、資本主義社会の中でも社会は良くなっていくだろう」と考えて10年間活動し、サステナブルなプロダクトの開発から地域創生まで幅広く活動してきました。しかし、自分が思っていたほどの効果が出なかった。考えが甘かったんですね。

 そこで、やり方を変えてみようと思って始めたのが「Loohcs高等学院」という教育機関の運営でした。既存の学校では、「これまでの社会の常識」に基づいて能力が評価されてしまう。でも、これからの時代を生きていくために最も大切なのは、他の誰とも違う特異性です。

 これまでの教育現場では評価されなかった個人の「特異な能力」を伸ばす教育を行い、「自分の未来は、自分の手の中にある」と実感できる若者たちを社会に送り出していくことで、世の中を変えることができるんじゃないかと思ったんです。

 ただ、2020年に僕が逮捕されたことで、その思いは道半ばとなってしまいました。

デザイン思考で考える
「幸せな社会」のつくり方

――仕事を失ってしまった期間は、どんな風に過ごしていたんですか。

伊勢谷 サーフィンとスノーボードに明け暮れる日々でした。もちろん、その瞬間は幸福を感じているんですが、同時に「自分がこの世に生きている意味って何だろう?」と自問する時間が増えました。

 そんな日々の中で、改めて「『幸せな社会』ってどんな社会だろう?」と考えてみました。その結果、生活のため、お金のために生きる意味を見失ってしまうような社会ではなく、「誰もがたやすく生きられる社会」こそ幸せな社会だと確信しました。人類の歴史上、生きることがたやすくなるのは「人類社会の進化の顕著な形」なのです。

 じゃあ、たやすく生きるためには何が必要なのか?僕が思うには、「高校~大学の高度で高価な教育を無料で受けられる」「最新、終末医療が無料で受けられる」ことだと思うんです。それを実現しているのが、近年、「世界幸福度ランキング」で第1位の常連となっているデンマークです。