デンマークでは年金制度が充実していて、かつ医療や介護などが無料で受けられるので、老後の不安はほとんどない。教育費は小学校から大学まで教科書代も含めて無料。さらに大学生には、生活費も含めた返済不要の就学支援金が支給される。だから、子どもの教育機会が親の経済力に左右されることがないんです。こんな素晴らしいシステムを実際に運用している国があるのに、なぜ日本ではできないんだろう?
こんなことを言うと、「デンマークは人口600万人足らずの国だから可能なんだ。日本は国家の規模が大きいから難しい」という人も多いでしょう。それなら、国の制度を地方分権にして、小さなエリアから新しい制度を導入し、成功したら他のエリアに展開していけばいいんじゃないか……こんなふうに、頭の中で理想がどんどん膨らんでいくんです。先ほどの「真の課題を発見し、人間中心に考えて解決策を見出す思考法」という定義で言えば、まさにデザイン思考ですね。
挫折禁止!
デザイン思考で人生を再構築していく
――今年1月には半生を綴った自叙伝が発売され、俳優としての活動も再開しました。伊勢谷さんは今後、デザイン思考を使って、どのような活動をしていくのでしょうか。
伊勢谷 今僕がやろうとしているのが、身近な製品に社会的メッセージを込めて、ユーザーに身につけてもらえるようなものの企画・開発です。その一環として、アパレルメーカーと組んで、「資本主義の奴隷」というメッセージを書いた服を、限定30着で販売するんです。これは、「既存の常識に縛られない生き方を選ぶ自分」の表明でもあるんです。
もう一つは、ドキュメンタリー作品の制作です。例えばフランスでは、スーパーでの食品廃棄を禁止にする法令がある。また、先ほどのデンマークのように、高等教育や医療が無料で受けられる国がある……。世界に目を向ければ、環境問題や社会課題を解決しようと、さまざまなチャレンジが行われている。その中から、すでに導入されてうまく回っている事例を、日本に紹介するようなドキュメンタリー映像を制作したいと思っています。海外では、日本が抱えている問題をすでに解決している事例もある。そのことを多くの人に知ってほしいんです。
今は「人生100年」と言われている時代です。僕はいま48歳だから、ようやく折り返し地点。残りの50年間、腐っているわけにはいかない。僕の座右の銘は「挫折禁止」。これまでのネガティブな部分も含めて、デザイン思考で人生を再構築していくつもりです。
1976年生まれ。東京都出身。東京藝術大学出身。モデル、俳優、監督、実業家として幅広く活動。2020年、大麻取締法違反容疑で逮捕。懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を受け、23年12月に執行猶予期間が明けた。24年1月、半生を綴った書籍『自刻像』(文藝春秋)を発売。同年3月、映画『ペナルティループ』にて俳優業に復帰。