TPOとビフォー・アフター
「お客様の立場に立つ」などという標語が会社の壁に貼られているのをよく見ますが、それが単なる「お題目」になってしまっていることもあります。具体的な方法論を伴わずに「お客様の立場に立とう!」と叫んでも、それは無理です。ここでは、有効な方法論を2つお教えしましょう。
1つは「使い方」を考えること。価値は使い方に現れるからです。使い方とは、「Time」(時間)、「Place」(場所)、「Occasion」(状況)のTPOから考えます。
先ほどの果物の場合、「朝(T)、鏡の前で(P)、髪の毛をセットしながら(O)」バナナを食べる、という使い方がわかれば、そこから「忙しい朝の手軽な朝食」という価値を導き出せます。
「お見舞いに(T)、病院で(P)、ケガした友人に贈る(O)」のであれば、「ギフト」という価値が導き出せます。
たとえば、イタリアンレストランに来店するお客様の立場を考えてみましょう。イタリアンレストランの「使い方」が、「夜、恋人ではない異性数名が初めて会う」という「合コン」の場合、その求める価値は「自然に盛り上がって仲良くなる」ことですね。
また、「結婚記念日、夫婦で静かに語らう」という使い方で求められる価値は、「静かに落ち着いて話せ、夫婦の会話を楽しんで絆を深められる」ことです。
「料理を食べにくる」だけではなく、まさに「使い方」が求められているということ。「顧客満足」のようなあいまいな表現では具体性がなく、お客様の心に刺さりません。具体的に考えることで、お客様に刺さり、売れるようになります。
このように、価値は「使い方」(TPO)を具体的にすることでグッと考えやすくなります。これは、個人顧客対象のビジネス(BtoC)であろうと、法人顧客対象(BtoB)の数億円の取引であろうと、基本的な考え方は全く同じです。
もう1つの手法は、ビフォー・アフターです。その商品の使用前後で、どう「お客様の気持ち」が変わるのか、ということです。イタリアンレストランに来る前(ビフォー)の動機は、「上司に怒られたよ……くっそー、飲んでやる」かもしれません。そして、気の知れた友人と二人で来て大騒ぎします(これが先ほどの「使い方」)。そして、店を出た後(アフター)は、スカッとして「よし、見返してやる! 頑張るぞ!」と気分新たになっている、というのがビフォー・アフターです。
このビフォー・アフターは、売り手には見えませんが、お客様にとって重要なのはビフォー・アフターの「変化」であり、その「変化」が「価値」なのです。
お客様にとっての時間軸で見ると、「ビフォーの悩み」→「使い方」→「アフターの嬉しさ」ということになります。このように、「使い方(=TPO)」や「ビフォー・アフター」を考えることで、お客様の立場に立てるようになるのです。