お客様の立場に立つことは難しい

「お客様の立場で、お客様の価値を考える」ことは、買い手にとっては当たり前でも、売り手には極めて難しいのです。ウソだと思ったら、カタログやウェブサイトにあるあなたの商品案内を見てみてください。

「この商品は、こういうものです」「こういう性能で、コレとアレができます」というような説明になっていませんか?

 この問題点は、お客様ではなく「商品」が主語であることです。「こういう性能だから、お客様であるあなたはどう嬉しいのか」が書いてある(すなわちお客様の立場に立っている)カタログやウェブサイトはあまり見たことがありません。私たちは、売り手になった瞬間に「買い手はどう嬉しいのか」を考えられなくなってしまうのです。そこにはお客様の「うれしさ」が表現されていない、ということです。

 お客様になったときは「ちゃんと説明してよ」と思うのに、売り手になったときは「それくらいわかってよ」となってしまいます。まさに「立場変われば人変わる」ですね。

 お客様の立場に立つことがカンタンなら、世の中から倒産や赤字会社は激減しているはずです。たとえば、コロナ下で人気になった「チョコバナナキット」。チョコレートソースやチョコバナナの棒などが一緒になったセットです。お祭りがなくなったコロナ下で、子どもと一緒にお祭り気分を味わえる、という「価値」で人気になりました。

 これでようやく、スーパーマーケットは「チョコバナナ」と「バナナ」を一緒に売ると両方売れることに気づきました。それで、バナナ売り場にチョコバナナキットが置かれるようになったんです。チョコバナナキットはそれまでは製菓材売り場にありました。ケーキ用のキャンドルなどが置いてある売り場です。それでは売れるはずがありません。

 さらにいえば、「パスタ」の隣で「パスタソース」が売られるようになったのも、わずかこの10~15年のことです。それまでは、パスタの隣にはうどんやソバ(乾麺)が売られていました。

 パスタとうどんを一緒に食べることはないにも関わらず、数十年間そう売られてきたわけです。スーパーを責めているのではなく、どうしても売り手は「モノ」中心に考えてしまう、ということのいい例です。