本当に届けたい人に届けるために、
水をホースではなく、雨のように降らしたい

 私の今の理想は、雨みたいな本を書くことです。その出所はわからなくても、広い範囲に降りかかるようなものを書いてみたい。

 でも気を抜くと、ホースから出る水みたいな本を書いてしまうんです。こういう問題意識を持っている作者だからこういう物語を書いた、というような、情報が一直線に並んだ本です。

 ホースって、手でギュッと先端を閉めるとビューって強く遠くへ飛ぶじゃないですか。だから、ある一点をめがけて、こういう人にこの本を届けたいんだ、とやる分には、有効な方法だと思います。

 でも、ホースの水はその軌道がよく見える分、避けることも簡単なんですよね。たとえば私が、こういう立場の人を応援したくて書いた小説ですとか、こういう立場の人に考えてもらいたくて書いた小説ですということを自分で説明してしまうと、「じゃあ自分は関係ないや」と容易に避けることもできる。

――読者対象を絞らないほうが、本当に必要としている読者に届く可能性が高いと。

 そうですね。この数年、本当に読んでもらいたい人に本を届けるには、ホースよりも雨なのかなって感じています。

 でも、ここ最近求められるのは、自分がどういう人間で、どういう考えや問題意識を持っていて、だからこの話を書いて、こういう人に読んでもらいたい、こういうふうに社会を変えたい、という、情報が一直線に並んだ部分なんですよね。

 それとは違う方法で本の存在を知ってもらうためにはどうすればいいんだろうと、日々考えています。

PROFILE
朝井リョウ

1989年、岐阜県生まれ。小説家。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。『何者』で第148回直木賞、『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞、『正欲』で第34回柴田錬三郎賞を受賞。近著に『スター』、『そして誰もゆとらなくなった』、『生殖記』。