企業理念でも十分?
「パーパス」も使いよう

 パーパス経営の提唱者たちは、これらの原則を通じて、企業が単に経済的な存在であるだけでなく、社会的な改善と進歩に貢献する力強い手段となるべきだと考えている。その結果、企業はより包括的で持続可能な方法で価値を創造することができ、その過程で利益も得られるというビジョンである。

 これまでのような企業理念では、社会性の部分が弱い。よって再度、社会での存在意義の観点から企業理念とは別にパーパスを作り直し、それに基づいて企業経営をすべきである、という考え方には一定の説得力がある。

 ただ、一方で、既存の企業理念においても、伊藤忠商事の「三方よし」や、サントリーの「利益三分主義」などに見られるように、パーパス経営が重視するようなことはすでに十分盛り込まれており、あえて新しい言葉を作成し、浸透させる努力は不要なのではないかという考え方にも一理ある。

 特にこれまで理念経営を徹底してきた老舗企業などは、フリードマン的な、利益創出こそが企業の価値であると言い放ってきたアメリカが、今ごろになって言い始めたパーパス主義の軍門に下るのはバカバカしいと思うだろうし、そのような企業の社員が、外国からの借り物の言葉を今さらとってつけたように導入するなど、愚の骨頂だと思うのも無理はない。

 結局、その企業の状況と考え方次第ということになろうが、かつては企業理念に基づいた経営をしていた優良企業も、気がつけば理念が形骸化し、不祥事を起こし、社員は理念と実態の差を感じることが多くなっている。

 その意味では、何かと「黒船」や「外圧」に弱い日本企業のこと、カタカナ語であったとしても、いや、であるがゆえに、新しい概念として企業の中に導入し、従来の企業理念との差異性を強調するよりも、企業理念のブラッシュアップのような使い方でより社会性が強調されたパーパスを使っていくのはかなり効果的ではないかと考える。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)