「MMT」が言うようにはいかない
歳出バラマキの影響は金利や物価に影響

 少数与党など政権基盤が弱い政府は往々にしてバラマキ的な政策を行う。他方で、増税や社会保険引き上げなどの負担増は後回しにされるだろう。これが経済にいかなる結果をもたらすだろうか?

 特に大きな問題は生じないという考えもある。

 その代表が現代貨幣理論(MMT)だ。これは、自国通貨を発行する国では国債が内国債である限り、財政支出をいくらでも国債で賄うことができるという考えだ。

 この考えは一見したところ、もっともらしい。

 なぜなら第一に、国債が内国債である限り、自分自身に対する負債なので、格別の負担は発生しないように思われるからだ。

 第二に、完全雇用経済では、財政赤字が拡大して需要が増加した場合に経済全体の需要が供給を超過してしまうので物価が上昇するが、不完全雇用経済であれば、遊休資源の活用によってGDPが増大するから、金利や物価には影響が及ばないように思われるからだ。

 MMTをそのまま信奉し主張している政党は少ないが、先の総選挙の公約などを見ると、多くの党が減税などを言う一方でさまざまな歳出拡大策を唱えている。

 例えば、国民民主党も「未来志向の積極財政」を掲げて、所得税基礎控除の引き上げやガソリン代値下げ(トリガー条項発動による揮発油税上乗せの停止)、事業主への社会保険料負担助成、教育国債の発行による教育や子育て政策の無償化――など打ち出している。

「賃金上昇率が物価(上昇率)プラス2%に達するまで」という前提だが、こうした政策が実施されれば、財政赤字は大幅に拡大するだろう。

 そして金利や物価にも影響が出てくる。

財政赤字が増加すると金利は上昇
人為的に抑えると債券市場は混乱

 マクロ経済学は、財政赤字が拡大すれば、金利が上昇しインフレ率が高まると予測する。その理由を標準的なマクロ経済学の道具である「IS・LM分析」と「総需要・総供給モデル」で説明すると、次の通りだ。

 IS・LM分析は、物価水準を一定にしてGDPと金利の関係を示すものだ(図表1参照)。財市場での均衡を表わす金利とGDPの関係がIS曲線で表わされ、貨幣市場における均衡をもたらす金利とGDPの関係がLM曲線で表わされる。

 縦軸に金利、横軸にGDPを取った図においてIS曲線は右下がりだ。なぜなら、金利が低ければ投資支出が増えてGDPが増大するからだ。

 一方でLM曲線は右上がりだ。なぜなら、GDPが増えると取引需要の貨幣(取引の決済などに用いられるマネー)に対する需要が増える。貨幣の供給が一定であれば、資産保有目的のマネーの需要を減らす必要があり、そのためには金利が上昇する必要があるからだ。

 財政赤字が拡大すると、追加需要(財政支出、または減税で増加した消費支出)が発生するので、IS曲線が右にシフトし遊休資源が活用され、このためGDPが増加する。

 ところがLM曲線は右上がりなので、IS曲線の右方シフトによって均衡点が右上方に移動する。つまり金利が上がる。

 なお、ここでいう金利は実質金利だから、物価が上昇すれば名目金利はさらに上がる。