狛犬ならぬ「狛巳」がお出迎え
春の桜、夏の青もみじ、秋の紅葉、冬の雪化粧など、四季折々の豊かな色彩が移ろう「哲学の道」は、銀閣寺参道と交わる銀閣寺橋から熊野若王子神社前の若王子橋まで約2kmにわたる散策路。京都大学の教授で、哲学者の西田幾多郎が思索にふけったことからその名が付きました。市バス5系統「東天王町」から徒歩5分ほど、鳥居をくぐってゆるやかな坂を上がっていくと、山のふもとに鎮座するお社があります。こちらが大豊神社です。
元は東山三十六峰の15番目にあたる椿ケ峰をご神体とする山霊崇拝の聖域でした。平安時代の887(仁和3)年、第59代宇多天皇にお仕えしていた女官の藤原淑子が、天皇のお悩み平癒を願って医薬の祖神である少彦名命(すくなひこなのみこと)を椿ケ峰におまつりしたのが大豊神社の始まりです。
ご神徳により快復されたのでしょうか、宇多天皇はその翌年、第34回でご紹介した仁和寺を創建されました。その宇多天皇が重臣として信頼を寄せていた菅原道真公、古事記や日本書紀にも登場する第15代応神天皇も後に合わせまつられました。諸病健康長寿のほか、金運、そして若返りのご利益を授けてくれるお社として信仰を集めています。
ご本殿前の左右で神様をお守りするのは、狛犬ならぬ、なんと狛巳。たいへん珍しい一対の“狛巳”がとぐろを巻いて参拝者を迎えてくれます。本殿に向かって右側の蛇は白色で口を開けており、左側の蛇は黒色で口をむすんだ姿、阿吽(あうん)の蛇です。
ご本殿の北側には、向かって右側に魔よけ、厄よけ、方よけ、勝運の神をまつる日吉社、左側に防火、防災、幸福飛来のご利益があるという愛宕社が並び立ちます。日吉社の前には“狛猿”、愛宕社の前には“狛鳶(とび)”、ご本殿南隣の稲荷社には“狛狐”、その隣の大黒社には、“狛鼠(ねずみ)”も鎮座しています。
参拝を終えたら、授与所に立ち寄って蛇にまつわる授与品を授かりましょう。蛇の姿をした愛らしいおみくじは、白色と金色の2種。ちりめん生地製の蛇のお守りもあります。また、ご本殿前には樹齢250年と伝わるしだれ梅の古木が立つほか、椿の名所としても知られています。梅と椿の見頃はいずれも3月頃。しばらく先になりますので、雪に備えて葉を落とした枝を見ながら、花々が咲き満ちる早春の様子を心に思い描いてみるのもいいでしょう。