長々と第一次大戦の流れを解説しましたが、当時の状況は、今の世界情勢と似てはいないでしょうか。ロシアに小国ウクライナが侵略を受け、米国+NATOという強力な軍事同盟国がウクライナの支援につきました。しかし、ロシアの背後には中国があり、パレスチナのゲリラと戦うイスラエルの背後には米国がいます。そして、パレスチナゲリラの背後にはイランが控えています。

 また突然、シリアのアサド政権が倒れ、韓国では大統領による戒厳令発令という事実上のクーデターが起き、北朝鮮はロシアと組んで派兵まで行いました。中国は台湾の武力的奪還を公言しているし、ロシアの領分であった旧ソ連のイスラム国家とも関係を深めています。

「第三次世界大戦」は否定できない
もはや「海の向こう」の話ではない

 こうして見て来ると、民族主義の高揚と領土拡大の意図を持つ大国の存在により、第三次世界大戦にいつ発展するのか、わかったものではありません。

 実際、ウクライナはNATOと米国(バイデン政権)の後ろ楯を得て、クリミア半島に攻撃を集中させています。「ここだけは停戦しても返したくない」という意思の表れでしょうが、ロシアがそれを認めるとも思えません。

 トランプ次期大統領が豪腕で、プーチンと親しいと言っても、それほど簡単に済む問題ではありません。ケネディ米大統領はキューバ危機の際、部下に向かって「君は、もし私がこの危機で間違いを犯したら、2億人の人々が死ぬということがわかっているかい?」と尋ねるなど、悩みに悩んでいました。それは当時のソ連指導者、フルシチョフも同じでした。

 両巨頭は、ちょっとした偶発的な事件で即座に核戦争になりうることがわかっていました。そして、どんな大戦果をあげても、核がもたらす惨禍を超えるものではないこともわかっていました。2人は周囲の強硬派と戦って、妥協点を見いだしました。フルシチョフは核ミサイルをキューバから撤去させ、かろうじて第三次世界大戦の危機は去ったのです。

 さて、25年以降に再び現実味を帯びると思われる第三次世界大戦の危機に対して、そんな芸当ができる政治家がいるでしょうか。プーチンにトランプ、正直絶望的な組み合わせです。仲介できる国としては、中国、英国、フランス、インドなどが候補に上がるとはいえ、どの国も国内問題を抱えており、二大国を説得できる状態ではありません。

 日本がすべての戦争に加担しないで済む状況を望むことも、相当厳しいでしょう。北朝鮮とロシアからの直接的な侵略の可能性や、世界大戦に乗じた中国の台湾侵攻にも備えなければいけません。しかしここに至っても、日本政府から危機感を訴える声は聞こえてきません。

 もはや第三次世界大戦は他人事でも、海の向こうの話でもないことを、日本人は自覚すべきだと考えます。

(元週刊文春・月刊文藝春秋編集長 木俣正剛)