企業における「言ってほしい」の実践~赤城乳業の場合
もう一つ例を挙げましょう。「ガリガリ君」アイスでおなじみの赤城乳業は、危機的状況に直面するたびに「『言ってほしい』を言うことで人を動かす」ことを実現してきた、非常に優れた企業です。
2023年4月、同社は「当たりつき やめるのを やめました」という広告を発表しました。新型コロナウイルスの影響で、アイスの棒を直接店に持参して交換することへの衛生上の懸念から、発売当初から続けていた「当たりスティック」の中止を検討していました。しかし、この伝統を守りたいという企業の想いから、衛生面に配慮した交換手順を定め、お客様への謝罪も含めて「やめるのをやめた」という発表をしたのです。
この広告はSNSで200万回以上再生され、「当たりつきを続けてほしい」「これからも応援したい」という声が溢れました。ファンの心の中には「確かに衛生上の懸念はあるが、なんとかガリガリくんの『当たりつき』を続けてほしい」という言葉にならない願いがあったのでしょう。
また2016年には、ガリガリくんが25年ぶりに60円から70円へ値上げしたことがありました。このとき赤城乳業は、企業が通常は積極的に触れたがらない「値上げ」という話題に対し、昔流行った高田渡のフォークソング『値上げ』をBGMに、社長以下100名以上の社員が本社前で頭を下げて謝罪するというCMを制作しました。
このCMに対してもネット上では、否定的な声ではなく「そんなに長い間、値上げしていなかったのか!」「70円でも十分に安い!」といった好意的な声が溢れ、前年同月比で10%上回る売り上げを記録しました。これは、「原材料費も高騰し続ける厳しい状況の中、25年間も値上げせずに頑張ってきてくれて、ありがとう」というファンの感謝の気持ちが形になった結果だと言えます。