これを読書に応用すると、どんなメリットがあるのか。例えば、本の内容を「紙1枚」レベルにまとめる過程で、書籍のテーマやメッセージについて「考え抜くこと」ができます。たとえ「面倒」であっても、「没頭」し、「深める」思考を通じて考え抜いたことは、早々簡単には「忘れません」。

 結果、必要な時に瞬時に「思い出し、仕事や人生に活かすこと」ができます。また、端的にまとめてあるからこそ、本の内容を「人に分かりやすく説明すること」も可能です。加えて、こうした読書体験を続けていけば、次第に「紙1枚」にまとめなくても、本を読みながら同レベルのことが脳内完結でもできるようになっていきます。

 これがまさに、「仕事や人生に本を活かせている人達が長年の読書を通じて辿り着いている世界」であり、「紙1枚」書くだけでそこを目指せることこそが醍醐味です。

「紙1枚」資料を繰り返し作成する過程で、「めんどくさい」思考・「深める」思考・「没頭」思考を鍛えていく。最終的には、資料を作っていない場面でも、すなわち「紙0枚」状態でも、頭の中だけで「スロー」思考ができる状態になっていく。

 これがトヨタの「紙1枚」文化の本質であり、20代の頃に、あるいはデジタル完結の時代が本格化する前に、こうした能力を磨く機会に恵まれたことは、その後の自身のキャリアにおいて決定的だったと強く感じています。

「読んでも忘れる」がなくなる~トヨタ式「紙1枚」を使った読書法がすごすぎたトヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』(浅田すぐる 著、サンマーク出版)

 もし、新卒からいきなり「紙0枚」状態の職場環境に放り込まれ、高度な思考整理力や、それに基づくコミュニケーション力・行動力等の発揮を求められたとしたら……。デジタルデバスしかない環境で、一体どうやって「システム2」を鍛えていったら良いのか……。(編集部注:「システム2」については前回記事で解説しています)

 本稿ではこれ以上深入りはしませんが、読書や学習のデジタル化同様、仕事のデジタル化もまた、本質を見失うと「とびつき」思考・「浅い」思考・「茫然」思考のまん延につながりかねません。薄っぺらい仕事、浅薄なコミュニケーション、浅はかな行動、等々……。

 もし、デジタル化の進展によって「雑な仕事」をする人が増えてきている、そんな課題認識があるのであれば……。2021年に文庫化された右記拙著も読んでみてください。