菅義偉が語る「バイデン大統領との初会談」の舞台裏、会談前にしていた「ある予習」とはホワイトハウスで会談する筆者(左)とバイデン米大統領 Photo:JIJI

総理就任後、コロナ禍のさなかではあるが、バイデン米大統領との会談や対中姿勢を明確にしたG7サミットなど、アジアの安全保障に関わる重要な外交を立て続けに行ってきた。前回に続き、今回も菅政権下での外交について振り返ろう。(肩書は当時)(第99代内閣総理大臣/衆議院議員 菅 義偉)

日米首脳会談で構築した信頼関係
コロナ禍で推進した対中安保外交

 2021年4月の日米首脳会談は、20年の年明け直後に新型コロナウイルスの感染拡大が発生して以降、米国にとっても、初となるホワイトハウスにおける対面での首脳会談であった。私にとっても、21年1月に就任したバイデン大統領との初の対面の会談となった。

 訪米した私はバイデン大統領と通訳のみを交えた首脳2人だけの会談に臨んだ。ここではお互いの政治家としての半生や、東日本大震災後に当時副大統領だったバイデン大統領がいち早く被災地に駆け付けてくれたことへの感謝など、政策論議よりも個人的信頼関係を構築するためのやりとりが中心となった。

 私たちは初対面にもかかわらず、「ジョー」「ヨシ」と呼び合った。首脳同士の個人的信頼関係は、その後の外交関係に大きく影響する。2人だけの会談の場面ではテーブルにおいしそうなハンバーガーが用意されていたのだが、互いの会話に没頭し、2人とも手を付けるのを忘れてしまうほどだった。

 それに続く関係閣僚や事務方幹部を交えた拡大首脳会談では、日米同盟の強化の方策について幅広い議論を行った。特に、日米首脳の共同声明としては実に52年ぶりに、「台湾海峡の平和と安定の重要性」への明示的言及が盛り込まれたことは大きな成果であった。

 米国がアジア太平洋地域の安定に関与する意志は強く、この日米首脳会談に先立つ3月には、バイデン大統領の主導で日米豪印の首脳がオンラインで会談し、QUAD(クアッド)の枠組みとして初めての首脳声明を発表している。〈ルールに基づく海洋秩序に対する挑戦に対応するべく、海洋安全保障を含む協力を促進する〉とうたった共同声明は、4カ国の協力を新たなステージに引き上げるものだった。

 日米同盟は、こうした多国間の枠組みの基底を成すものでもあり、台湾海峡情勢を含め、緊張感を増す東アジアの安全保障環境を踏まえたさらなる強化を、バイデン大統領との間で確認できたことの意義は極めて大きかった。

 また、拡大会談では実に感慨深い出来事があった。同席したブリンケン国務長官、サリバン大統領補佐官、キャンベル調整官ら米側の枢要幹部がそろって、日本の拉致問題解決への理解と支持を示すブルーリボンバッチを着けてくれていたのである。1990年代から拉致問題の解決に取り組んできた私は、人権問題を重視するバイデン政権のスタッフたちが「日米は共にある」「同じ課題に向き合っている」と目に見える形で示した心尽くしに大変感銘を受けた。

 そして首脳会談でも拉致問題に関し〈日米が連携し北朝鮮に即時解決を求める〉ことを確認した。