外交は総理にとって非常に重要な任務だ。総理就任時はコロナ禍の最中で対面外交に制約もあったが、東南アジア歴訪など、数多くの手を打ってきた。今回は外交での取り組みを振り返ろう。(肩書は当時)(第99代内閣総理大臣/衆議院議員 菅 義偉)
コロナ禍に米国大統領選挙の中
就任後初の外遊先は?
総理就任後、早速検討課題となったのは、最初の外遊先としてどの国・地域を選ぶかであった。
外交戦略上の基本方針として、日米同盟を基軸とし続けるとともに、安倍政権期の2016年に提唱して国際的な広がりを見せていた「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想を具体化していくことは、日本外交のみならず、日米同盟の共通目標でもあった。
FOIPは「対中包囲網」などと見られがちだが、実際はそうではない。中国が既存の国際ルールに従い、他国の自由な活動を脅かすことなく、インド太平洋地域の責任あるプレーヤーとして安定と繁栄を目指すのであれば何ら問題もないし、地域の国々からも歓迎されるだろう。
中国がFOIPの理念に賛同し、行動でそれを示すのであれば、中国も同構想のパートナーと見なし得る。FOIPとはそのような包摂的なビジョンなのである。
私が総理に就任した20年9月末の米国は大統領選挙の真っただ中であった。当時のトランプ大統領からは初めての電話会談で「24時間、いつでも電話してほしい」と伝えられ、日米同盟の結束を確認できたが、現実には、内政に忙殺される米国の外交面での存在感や展開力は著しく低下していた。
さらには、いまだ新型コロナウイルスの世界的流行が収まらない中であり、対面方式の外交はごく限られた状況にあったのである。
そうした中、私が選んだのは10月からの東南アジア諸国歴訪であった。20年の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国であるベトナム、世界4位の人口を誇るASEANの盟主・インドネシアの2ヵ国は、コロナ禍の下での外遊であるにもかかわらず、私の訪問を大いに歓迎してくれた。
ベトナムのグエン・スアン・フック首相とはFOIP構想の具体化で一致した。ベトナムは中国と南シナ海の領有権で争っていることもあり、フック首相は「平和的な解決の重要性を確認し、大国である日本が役割を果たし地域の安定に貢献することを期待する」と述べた。そして安全保障面では、防衛装備品・技術移転協定が実質合意に至ったことを歓迎したのである。
また、私が官房長官時代から力を入れてきた日本の介護施設の人手不足解消においても、ベトナムとの協力を深めることとなった。コロナ禍で日越両国間の往来が制限される中ではあったが、喫緊の問題である人手不足の解消のため、ベトナムの技能実習生の往来制限を緩和することを確認したのだ。
会談後、フック首相と「ホーチミンの家」を訪れて交流を深めることができたのも印象深かった。