2024年10月24日、中堅AV・家電機器メーカーの船井電機は、創業家の取締役によって準自己破産の申請が行われ、即日開始決定を受けて破産した。北米の液晶テレビ市場で長らく存在感を示してきた同社で、一体何が起こっていたのか。破産に至った真因を探ると、上田智一前社長の致命的なミスと、銀行の存在が浮かび上がった。特集『上場廃止ラッシュ2025』(全11回)の#5で明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)
破産開始決定後、制御不能に陥った船井電機
上田智一前社長の致命的なミスとは
創業者の船井哲良氏が1951年に立ち上げた船井ミシン商会を前身とし、61年に設立された船井電機。85年に発売されたテレビとビデオが一体となった「テレビデオ」は、北米で60%以上のシェアを獲得し、FUNAIブランドが世界へ認知されるきっかけとなった。
だがその船井電機は2024年10月24日、創業家の一人である船井秀彦氏自らの手で準自己破産の申請がなされ、73年の歴史に幕を下ろした。
同社が変調を来したのが、17年7月に精神的支柱だった創業者の船井哲良氏の逝去だ。以降、船井電機は進むべき道を見失い、迷走を始める。
当時から、船井電機の業績は極めて厳しい状況に陥っていた。下図は、17年3月期以降の船井電機の業績を示したものだ。24年3月期までの8期中6期で最終赤字に陥っている。
破産へ至る道に足を踏み入れたのは21年3月だった。出版社の秀和システムホールディングス(HD)によるTOB(株式公開買い付け)を受け入れ、21年8月に傘下入りして非上場化。それからわずか3年で、準自己破産の申請が行われ、同日破産開始決定が下された。
準自己破産とは、取締役の間で同意が得られない場合に、一部の取締役により破産申し立てをする手続きだ。破産事件記録によれば、船井電機は24年9月末時点で33億円の簿外債務が存在するなど、少なくとも約117億6900万円の実質債務超過に陥っていたという。
船井電機単体の従業員532人は、破産開始決定日に一斉に解雇。さらに翌日の25日に支払われるはずだった10月分給与も未払いとなることが告げられた。
破産開始決定から約3カ月たった今、船井電機の状況はさらに悪化している。新たに代表取締役会長に就任したとされる元環境大臣が破産開始決定に反対して民事再生法の適用を申請し、破産の前月まで社長を務めていた上田智一氏が元・現取締役を告訴・告発した。
極め付きは、破産した船井電機の株式の所有権が、破産開始申請直前に取締役に就任した古寺誠一朗氏の親族の会社に移されるなど、収拾がつかない状況に陥っている。
なぜ同社は破産しなければならなかったのか。またなぜ今のような制御不能な状況に陥ってしまったのか。取材を進めると、幾つもの疑問点・問題点が浮かび上がる。
その中には、根本原因ともいえる元社長の上田氏の致命的な経営ミスと、同氏や秀和システムに資金供給していた二つの銀行の存在があった。上田氏への直撃インタビューとともに次ページで明らかにする。