
資本効率の改善を求める東京証券取引所の市場改革により、株主還元を強化する上場企業が増えている。東証プライム上場の山崎製パンもその一社だ。配当金増額や自社株買いなどを近年強化しているが、その原資は、原価上昇を理由にした度重なる値上げである。上場企業の理想を実現するために、消費者の財布を痛める「便乗値上げ」に走ったといわざるを得ない。特集『上場廃止ラッシュ2025』(全11回)の最終回で、その大矛盾を明らかにする。(フリーライター 村上 力)
大幅増配&巨額自社株買いでPBR改善
商品価格の値上げで“資本主義的理想”を体現
製パン最大手の山崎製パンが株主還元を強化している。
2024年7月、1株当たり期末配当を、前回の25円から38円に増配すると公表。さらに25年1月末には期末配当を45円に上方修正した。配当金総額は前年の51億円から89億円に増加する。山崎製パンは、この10年間で配当金を少しずつ増加してきたが、今回の上げ幅は段違いに大きい。
また昨年2月と8月、東証ToSTNeTを通じ、合計257億円の自社株買いを実施している。配当金を合わせると、株主還元の総額は約346億円にもなる。この金額は、昨年の山崎製パンの連結営業利益約420億円の8割に匹敵する。
山崎製パンは21年ごろからToSTNeTを利用した自社株買いを複数回行っている。4年間の合計は465億円で、発行済み株式総数の約8.4%を買い付けたことになる。22年ごろに株価は1600円前後で、PBR(株価純資産倍率)は1倍割れとなっていたが、24年春ごろには4000円台まで高騰。現在は約2800円、PBR1倍以上で推移している。
大胆な資本政策を取ることができるのは、業績が良いからだ。
22年2月のウクライナ戦争勃発で、パンの主要材料である小麦の価格が高騰。業績への悪影響が懸念されたが、22年12月期も増収増益を維持。23年12月期も連結営業利益は過去最高の420億円となった。さらに24年12月期は売上高1兆2340億円、営業利益480億円を予想している。
昨今、海外投資家を中心とした市場圧力により、不本意な株主還元を強いられる上場企業がある中で、山崎製パンは企業と株主が喜ぶ“資本主義的理想”を体現しているように見える。
だが、消費者の側に立つと、納得のいかない点がある。山崎製パンの増収増益と株主還元増は、商品価格の値上げにより実現されたものだからだ。次ページでその内実を明らかにする。