TikTokも中国国内では「抖音」という別アプリとして展開されている。我々外国人ユーザーは抖音をダウンロードできず、TikTokしか利用できない。そもそも米国ユーザーと中国ユーザーが「交流」したり、「相互関係」を築いたりできるような「オープン」さは存在しないのだ。

 それだけではない。

 実は10年以上の前のインターネットは、中国人ユーザーと海外ユーザーをつなぐ「民間外交の場」として機能していた。当時の中国のネットユーザーは、2000年以降に大学でネットと英語教育を受けた人たちがほとんどで、中国と外国の間に横たわる情報格差の存在もきちんと理解し、知識の空白を埋め、自分たちの知らないことをもっと知ろうという好奇心の塊だった。彼らはまた中国のIT業界第一世代でもあり、だからこそ海外の技術や情報を欲し、それらを英語で吸収した人たちであった。

 かつて、彼らはFacebookやTwitter(X)を使い、海外の情報にアクセスし、同時に中国事情について海外のユーザーと交流していた。筆者自身も、中国人ジャーナリストを日本に招いて広く紹介するお手伝いをしたこともある。当時の日本では、まだまだSNSが市民権を得ておらず、逆に中国でのSNS利用状況の紹介はほとんど知られていなかったので、日本のIT業界関係者から大きな関心を集めた。

 しかし、2008年に起きたチベット騒乱、2009年のウイグル騒乱などにおいて、中国のユーザーたちが現地からの情報発信に使ったSNSが、次々と中国当局によってブロックされ、中国国内からアクセスできなくなっていった。今ではそれらに加えて、InstagramやLINEも通常のインターネット接続では利用できなくなっている。前述のネット第一世代たちはそれを「壁」と呼んだ。

 さらに、中国のネットサービスの多くは「実名制」が義務付けられ、中国政府発行の身分証明書かパスポートによる本人確認が必要になった。外国人ユーザーははじき出されたり、機能を制限されたりする。この実名制によって、新型コロナ感染対策において厳しい管理規制が敷かれたことは広く知られている。