記憶の「刻み方」を工夫する~目の前のことに集中するよう伝える
問題の一つ目は、記憶がしっかり刻まれていない可能性があるということである。もう一つは、記憶がいったん刻まれたとしても、その保持がうまくいかないということである。
どちらか一方に問題がある可能性もあるし、両方共に問題がある可能性もある。いずれにしても、それぞれに対処しておけば改善が期待できる。
まず第1の問題に対しては、記憶の刻み方を工夫する必要がある。人と話した後、振り返ってみると、そのときはちゃんと聞いているつもりだったのに、相手の話した内容をほとんど思い出せない――そんなことはないだろうか。上の空で聞いていると、相手の話したことがほとんど頭に残っていない、ということになってしまう。
ここから分かるのは、単に耳で聞いているだけでは記憶に刻まれない、しっかり意識を集中して聞いていないと記憶に刻まれないということである。元々集中力が乏しい人の場合は、疲れてくると緊張の糸が切れて、上の空状態で聞いてしまいがちである。また、何か気がかりなことがあると、知らないうちにそのことを考えてしまい、目の前のことには上の空になりやすくなる。
人の話が記憶に刻まれにくい人に対しては、そういった知識を与えた上で、何か気がかりなことがあっても仕事中は気持ちを切り替えて目の前のことに集中し、人の話を聞くときも上の空にならないよう意識を集中するようにアドバイスすべきだろう。
記憶の「保ち方」を工夫する~絶対にメモを取る
第2の問題に対しては、記憶の保持が苦手な場合の対処法を工夫する必要がある。
たとえば、人の話を聞いているときはしっかり理解しており、頭に入っていても、その後さまざまな用事があり、他のことに追われているときは、当然だが目の前のことに集中しているため、数時間前に聞いた話は念頭から消えている。
![書影榎本博明『ビジネス心理学大全』(日経ビジネス人文庫)](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/a/1/250/img_a195b207d2133b8c1a2758ffd78f3b9e93189.jpg)
そこで、「そういえば、さっき何か用件を言われたけど、何だったっけな?」と振り返り、記憶を引き出そうとしても、記憶の保持が苦手な人の場合、どうにも記憶を引き出せない。
社内の人から言われたことであれば、失礼になるのは覚悟の上で聞き直すことができる。だが、お客や取引先からの電話で受けた用件の場合は、忘れてしまったからもう一度教えてほしいというのは、なかなか言いにくいし、信用を失いかねない。
記憶の悪い人物がそのようなミスをするのを未然に防ぐには、受けた用件は常にメモしておくように指示しておくべきだろう。