「最初のうちは、周囲の同僚たちも、『ほんとに天然なんだから』とか言って、呆れながらも笑ってたんですけど、さすがに最近は『もういい加減にしてほしい』って苛立ってる感じで……だから職場の雰囲気がちょっと微妙な感じになっちゃってるんです。ところが困ったこと、彼女は電話で予約を受けた記憶がないんですよ。こんなことが何度もあって……」
この例以外にも、このところ「記憶に問題があるのではないか」という声をしばしば耳にする。スマホ認知症などという言葉もあるが、外部記憶装置に頼るのが日常化していて、記憶機能が鍛えられないどころか衰えているということがあるのかもしれない。
外部記憶装置に頼っていれば、記憶機能が衰退するのは十分あり得ることだ。たいていの場合、そこまで深刻なことにはならないかもしれないが、元々記憶機能に弱点がある場合、深刻な衰退が生じる可能性もある。
ついさっき、電話で予約を受けたことすら忘れてしまう
話を聞くと、結構深刻な状態のようだ。
「『電話を受けたらすぐに入力するように』って念押ししたり、何かと注意はしてるんです。でも、すぐに入力するときはいいんですけど、彼女は電話が終わってもすぐに入力せずに、何を考えてるんだか、手帳をパラパラめくってることがあって、『早く入力しないと』と急かしたら、『何のことですか?』と言うので、『今受けた電話の用件が予約なら入力して、そうでなければ用件をメモしておかないと』と言うと、『えっ? 電話なんか受けてませんよ』とケロッとして言うんですよ。本人は記憶がないから、悪びれたところもなく、アッケラカンとしてるんで、まあ困っちゃいます。
でも、最近はぶっきらぼうな若手もいて、お客に嫌な思いをさせて怒らせたりするから、人当たりのいい彼女は貴重な存在でもあるんです。だから、何とか記憶面の改善ができればと思うんですけど……」
そこで、その人物の事例において考えられる問題のありかを二つに整理して伝えた。